読書 『本質を見通す100の講義』
「自分をはっとさせる言葉」に、無性に出会いたいときがあります。
価値観をゆさぶるような、自分がとらわれている「常識の殻」をぶちやぶってくれるような、切れ味のするどい言葉を。
日常に退屈に感じ、変化を求めているからかもしれません。
そんな言葉を、つぎつぎとなげかけてくれるのが本書で、自分で考え、自分で判断する力を養いたい人におすすめです。
森博嗣さんのファンにとっても、彼の思考の断片を楽しめるのはもちろん、周囲に流されがちな人にも、他の人とは違った見方をすることに勇気を与えてくれます。
森博嗣さんの気づきや思考の深さは、まるで別次元のようで、はっとさせられるような新しい視点が満載。
例えば、以下の言葉。
そして、特に本書の「まえがき」に記載されている、読書の価値についての考察も秀逸なので紹介します。
本は書かれている内容よりも、「自分がどう感じ、どう考えたか」が大切だと、再認識させてくれます。
感覚的にも、これほど読書について、的を得ているたとえはないように思えます。
読書とは、まずは自らが本の世界に足を運び、「影響を受けよう」と思いながら読み進め、「本の世界」と「自分」と照らし合わせ、本の世界に個人的な具体性を付与してきます。
その際、必ずしも筆者の意図を汲み取る必要はなく、たとえ誤った解釈であれ、独自性を磨けるのであればよしとします。
そんな、うまく言語化できていなかったことを、言語化することを助けてくれました。
そして、「読むこと」と対になる「書くこと」について示唆的だったのが、ブログを書き続けてる人が減ってきたということ。
ブログを続けられる人は、仕事としての報酬を得ているか、あるいはボランティアのいずれかで、どちらにも共通しているのが、不特定多数に対する「サービス精神や奉仕」の気持ちです。
「自分をわかってほしい!」と訴える人は長続きしない、ということです。
作者について少し紹介しておくと、著者の森博嗣さんは人気ミステリィ作家で、1957年の愛知県生まれ。
工学博士であり、某国立大学工学部助教授として勤務するかたわら、1996年、『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞し、ミステリィ作家としてデビューしました。
数多くの作品を発表しつづける森さんが、「いかにコンスタントに売れる小説という商品を量産するか」について語った『小説家という職業』では、商売の視点で、職業として小説を作るとはどういうことかを教えてくれます。
少しだけ内容を紹介すると、小説は自由な表現が面白いのだから、他の作品の分析やテーマなどは不要で、ただ小説を書きはじめなさいと断言していました。
そういった合理的な考えや視点は、本書でも活かされており、何気なく過ごす中で見落としている、物事の本質とはなにかを考えさせてくれます。
自分で考える、自分で判断するという作業を、日頃から意識して行い、遠回りすることで、初めて辿りつける面白さがあることを教えてくれます。
本書は100のテーマについて「問い」と「その答え」が1行で書かれており、目次を見れば本書の要点がつかめる構成。
それぞれ各2ページで、世間で常識や一般論だと考えられていることを掘り下げており、さっと読めます。
最初から順に読んでいくというよりは、気になるトピックを目次で選び、つまみ食い的に読むことのほうが向いており、「考えて生きる」ための鋭い視点を身につけるのに役立つでしょう。