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【レビュー】古賀史健さんライター講座 「書く人」から「つくる人」へ。
昨日にひきつづき、古賀史健さんのイベント動画をご紹介。
『取材・執筆・推敲』の出版を記念してひらかれたイベントで、ライターと編集者の役割分担について語られています。
意外だったのが、「原稿を編集するのは、100%ライターの仕事である」という点。
編集者の仕事をよく理解することで、ライターの仕事をうかびあがらせることができます。
それにより、「文章を書く」だけのライターから、「コンテンツをつくる」ライターへのジャンプができるようになります。
編集者の仕事
まずは編集者の仕事をみていきましょう。
編集者の仕事はずばり「人、テーマ、スタイル」のくみあわせを考えることです。
いいかえると、「だれが、なにを、どう語るか?」を考えるということになります。
人
人を選ぶのに大切な視点は、「必然性と説得力」です。
たとえば、オバマ元大統領とミシェル夫人の出版契約があげられます。
出版社は、二人がまだ何も書いていない時点で、60億円の契約を結びました。
もし本が売れなくても、出版社のイメージアップにつながると判断したからです。
これは、「あのオバマ夫妻が、それぞれに語る」というだけで、「必然性と説得力」がうまれるからです。
たとえ人気作家や有名人でない書き手であっても、そのテーマを語るに足るだけの必然性と説得力があれば、著者が有名であるかどうかは関係ありません。
編集者にとっての第一歩は、ただ「人」を探すことではなく、「それを語るに足る必然性と説得力」の持ち主を探すことなります。
テーマ
テーマと人の、意外なくみあわせが面白く、そんな意外性を発揮したのが養老孟司さんの『バカの壁』です。
知の巨人である養老孟司さんが、バカについて語るという切り口が面白く、多くの人に響きました。
ここで重要なのが「テーマを転がす」という視点。
たとえば、「どんなヘビースモーカーでも治せるカウンセラー」の人に本を書いてもらう場合、「禁煙本」という古臭いテーマで本を出しても、面白がってもらえません。
そこで「テーマを転がし」、悪い習慣をやめることや、いい習慣を継続する技術、または、ダイエット、勉強法、英会話に発展できないかどうかを考えていきます。
よって編集者の仕事は、自分がほれ込んだ書き手に対し、いちばん合ったテーマを提案し、「その人のあらたな魅力を引き出す」ことともいえます。
スタイル
ここでいうスタイルとは、「です・ます調」や「だ・である調」といった小手先のことをいっているのではありません。
スタイルとは、「誰に、どう読んでもらうのか」によって変化させるパッケージのことを指しています。
たとえば、専門知識をもたない読者に向けたコンテンツであれば、そのスタイルは入門的なものになります。
先述の『バカの壁』も、専門知識をもたない読者に向けてかかれた本なので、語り口調で書かれています。
最近よくみる「マンガでわかる〜」といったものもスタイルの一種です。
良い例
まとめると、編集者の仕事は「誰が、なにを、どう語るか」の設計といえ、すべてが「人」を編集することにつながっています。
よって、人に興味がない人は、編集者には向いていないということになります。
「誰が、なにを、どう語るか」の秀逸な設計の例が、世界で1000万部売りあげた大ベストセラー『ホーキング、宇宙を語る』。
タイトルに、天才物理学者のホーキング博士が、宇宙のはじまり(ビッグバン)からおわり(ブラックホール)までについて、会話体でわかりやすく説明する、という情報が、見事に詰まっています。
ほかにも例をあげると、『もしドラ』はドラッカーの専門家(人)が、ドラッカーの経営論(テーマ)を、ラノベっぽい装いをした青春小説(スタイル)で書かれています。
そして『嫌われる勇気』は、アドラー心理学の専門家(人)が、対人関係の悩みという、アドラーが扱っていた中心課題(テーマ)の、哲人と青年の対話編(スタイル)。
当初はアドラー心理学の専門家(人)が、アドラー心理学(テーマ)の、入門書(スタイル)を考えていたようですが、テーマを転がし、スタイルも考えぬいた結果、上述のものに変更し、ベストセラーとなりました。
ライターの仕事
ライターとは「取材者」であるといえます。
ライターはオバマのような経歴もなければ、ホーキンズのような知識もなく、ましてや夏目漱石の文才やひらめきもありません。
この、自分のなかになにも持っていない「空っぽ」であるからこそたくさん「取材」をします。
そんなライターの強みは、わからない人の気持ちがわかること。
わからないことを、読者のかわりに苦労して調べ、わかったあとに振り返り、なぜ苦労したのかを考え、読者にとって分かりやすい理解のステップを考えることがライターの仕事です。
そこで重要になってくるのが「情報の希少性、課題の鏡面性、構造の頑強性」くみあわせを考えることです。
情報の希少性
読者は、買った本が「すでに知っていること」をたんたんと述べているだけだった場合、失望します。
それは、読者がいつも「出会い」を求め、「発見」を求めているから。
逆にいうと、「ここでしか読めないもの」がコンテンツに含まれたとき、はじめて価値があるものとなります。
課題の鏡面性
とりあげる課題が読者にとって、「自分ごと」に感じられるかどうかが「課題の鏡面性」です。
たとえば、「自分がねているときに見た夢」は、自分にしか語れないことなので、「情報の希少性」は高いといえますが、読者にとっては「他人ごと」なので、「課題の鏡面性」も価値も低いといえます。
どうすれば読者にとって「自分ごと」にできるかというと、キーワードは「作品世界に没入」。
小説の場合だと、没入の鍵は、物語の有無よりもむしろ、キャラクターの付与にあり、魅力的なキャラクターがいることによって、自分を重ね、作中の出来事を自分ごととして読むことができます。
キャラクターの登場しない、ノンフィクションの場合は、専門的な内容と読者とをつなぐブリッジが必要です。
構造の頑強性
構造をいいかえると「ロジック」といえます。
文量が長くなればなるほど、構造が重要になってきます。
設計図と精緻なロジックが求められ、構造を設計する力に乏しければ、たとえ文章そのものが名文とよばれるものだったとしても、長い文章が書ききることはできません。
コンテンツをつくることは、建物をたてる作業に似ており、論理の柱があやうい建物では、まっとうなコンテンツがたちあがってきません。
おわりに
いままでは漠然と、編集者とは、ライターの企画にイエス・ノーを答える人、ライターに企画を提案する人、ライターに締め切りを守らせる人、ぐらいに考えていたが、そんなレベルの低い話ではないことを、このイベントを通じて思い知らされました。
人の編集こそが、編集者の仕事であるという点はシンプルでありながら、洞察力にすぐれた視点だと思います。
そして、編集者の仕事である「テーマを転がす」ことは、ライターにも使える技だと思いました。
また、ライターの仕事である「情報の希少性、課題の鏡面性、構造の頑強性」の組み合わせはどれも重要で、自分が発信するものにいかに付加価値をつけるかを考えるうえで参考になりました。
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