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レビュー『時間のかかる読書 』
11年という歳月をかけて、『機械』という短編を読み込んだ男の記録。
ある一行を読むたび、そこに出現する「言葉」や「人物」、あるいは「出来事」に出会ったときの、その驚き、あるいは悦びを言葉にしていった。
読書をしながら四方八方に思考を飛ばし、仔細な表現にこだわり続け、深読みし、だいたんな仮説までたててみる。
なんの展望もないまま、わたしは読み続けていた。そうすることに意味を感じていたらわけでもないし、いまとなっても、なにか成果があったとも思えない。
あえてだらだらと読み、誤読してみるという姿勢は、効率性をもとめる速読とは対局の、あらたな読書の楽しみ方の一面を見せてくれます。
著者が読んだ『機械』も収録されているので、筆者がどう読んだのかという読書の足跡もたどることができ、楽しめます。
そして、なんといってもサブタイトルが俊逸。
「横光利一『機械』をめぐる素晴らしきぐずぐず」
「ぐずぐずする」というのは本来ネガティブな印象を与えますが、それを「素晴らしい」と断言することで、ある種の魅力を放っています。
著者の宮沢章夫さんは、多摩美術大学美術学部建築科中後、劇団の「遊園地再生事業団」主宰となり、2016年4月から早稲田大学文学学術院文化構想学部教授を務めていた方。
『時間のかかる読書 』は表紙のデザインもすばらしく、時間がかかるということを文字だけで表現しています。
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