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映画『ラストマイル』の爆弾犯は、なぜ都心の「バラック」に住んでいたのか——映画『パトレイバー』と、「東京」論を補助線にして
映画『ラストマイル』をみて、仕事という観点から感想を書いたが、暴力というかテロの観点から何かを語り残したような感覚があって、続きを書いている。
まずはあらすじ。
Amazon.co.jpを思わせる「デイリーファスト」というアメリカ本社のグローバルEC企業の日本支社のとある倉庫が舞台。
その倉庫のセンターを管理する業務を担う満島ひかり(上司)と岡田将生(部下)のところに、ブラックフライデー商戦の主力商品であるスマートフォンが爆発したとのニュースが入ってくる。
原因何か? 誰がやった? ほかにもある? 今回のセールでの売り上げ目標を達成しなければ。そうした疑問と義務で焦りながら、原因と真相の特定へと向かいつつ、社内でも社外でも責任を押し付け合う争いが生じている。
で、今回焦点を当てたいのは、『ラストマイル』で描かれるテロ(爆破)のあり方について。
ポピュラーカルチャーは、テロを描きがち
思い返すと、新海誠監督の『君の名は』にも、ループするために爆破するシーンがあり、『天気の子』にも拳銃のシーンがあり、こうした暴力装置を入手したり、用いたりするシーンはポピュラーカルチャーにもよく出てくる。
新海誠作品のストーリーを思い出すと早いが、拳銃や爆弾は、大衆文化において、別世界や非日常への入り口として用いられてきた節がある。つまり、「ここまではいけない」「なんとかしなきゃいけない」という感情の昂まりの発露として、暴力は描かれている。
この辺りの感想を検索すると、「彗星落ちるから、その対策として、なんか爆破するのがよさそうだし、そうしよう」という、常人にはうかがい知りがたい動機で爆破に及んだ様が混乱を誘ったようで、ネットでも揶揄的な感想も見つかるほどだ。
そこまでして爆発や暴力をポピュラーカルチャーが描きたくなってしまうというのが、非常に興味深い。日本のポピュラーカルチャーには、そういうテロや暴力を呼び込みやすい心の習慣が、どういうわけか存在しているということだと思う。
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ほかにも、「残響のテロル」(2014)というそのものずばりの作品もあるし、「リコリス・リコイル」(2022)などもテロリストを扱った作品だ。Netflixのアニメ化で話題を呼んだ「プルートゥ」(2023)は、複雑な構造を持っているとはいえ、ヴィランの視点に立てば、既存の秩序への挑戦(=テロル)的想像力を基調にした物語と言って構わない。アニメシリーズの「Psycho-pass」も、この線上に置くことができる。
有名どころだと、ドラマシリーズの「相棒」や「科捜研の女」は、結構テロリストが出てくる。そういえば、名探偵コナンの劇場版もそうだ。コナンの劇場版は、「小さな殺人事件と並行するテロ計画」のようなストーリーを用いることが増えてきた(「ハロウィンの花嫁」など)。
……何が言いたいかというと、サブカルチャーは度々テロ的な想像力を描いてきたということだ。(ちなみにコナン映画については、プレジデントオンラインに書いたことがあるので関心あればどうぞ。)
劇場版「機動警察パトレイバー」と『ラストマイル』をなぜ比べるのか
映画『ラストマイル』に始まって、サブカルチャーとテロリズムの重なりを追いかけていて想起せざるをえないのは、押井守監督による映画『機動警察パトレイバー the Movie』の1と2だ。わかりやすさのために、以下では、一作目を『パトレイバー1』、二作目を『パトレイバー2』とだけ表現することにしよう。
映画『パトレイバー』は、『ラストマイル』と同じく、都心におけるテロリズムを描いている点で共通している上に、『1』と『2』は、『ラストマイル』のテロについて考える上で、異なる解釈レンズになってくれる。どちらと比較するかによって、『ラストマイル』のテロリズムの違った側面が見えてくるということだ。
書いていると長くなったので、今回は『パトレイバー1』(1989)に絞って書くことにしたい。『パトレイバー2』(1993)との比較も、『ラストマイル』の公開が終わらないうちに更新したい。
『パトレイバー1』と『ラストマイル』を照らし合わせて、最も際立って感じられるのは、「都心のバラック」を描き、そこにテロリストを住まわせていることだ。
バラックは、粗末な小屋のこと。つまり、開発によって一掃される運命を感じさせる、豊かとは言えない下町の、場合によると住民が手づから建て、修繕し、改築しているのではないかという家々から成る、雑然とした街並みを思い浮かべるとよい(画像検索すると出てくるイメージはこんな感じ)。
要するに、今回は、「都心のバラックに住むテロリスト」というモチーフに注目したいということだ。
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