3月、ある昼下がりの小さな冒険
子育ては、時に思いがけない時間を作ってくれることがある。
先日、とある土曜の昼下がり。
いつも通り、近くの公園に行き、子供と遊ぶ時間。
ここは、冬は「雨雪が降ってなければ晴れ」というぐらい、どんより曇り空が当たり前の地域。
だけどその日は、春の到来を告げるかのような、ぽかぽか暖かい日だった。
私は、3月のあの空気、匂いが大好きだ。
冬が終わり、少しだけ春の匂いがしてくる空気。
過ぎゆく季節、別れゆく各々の人生に少し切なさを感じつつ、きたる未来に少しの希望を感じる、空気。
ああ、いいなぁ。
ずっとこうしていたい。
そんなことを思いながら、そろそろ帰ろうか、と子どもを抱っこし、家の方向へ。
そうしたら、突然。
「アッ!アッ!」
といいながら、いつもは通ったことがない道を指差す。
え、行くの?
でも今日は少し余裕があるし、たまにはいいか。
「次の赤ーいとまれのところまでだよ〜」
そういいながら、踏み出す。
数年住んでいる場所なのに、私も通ったことない道。
少しだけ、ワクワクしてきた。
とまれのところまで行くけれど、やっぱり
「アッ!アッ!」
えぇ〜、まだ行くの?次のとまれまでだよ?
そう言って、抱っこしたり降ろして歩かせたり。
閑静な住宅街の、細い小道。
とまれのところで止まらず、どんどん遠くへ。
大人になると、いつもはこのへんでやめとこうと、離れた場所や手放した物事、蓋をした感情が多くなっていく。
だけど、今日は子どもに導かれるまま、思うままに遠くへ。
日が少し傾いてきて、小さな子供の影が少しずつ長く伸びていく。
春風に吹かれるままに、前へ、前へ。
どこまでいくんだろうなぁ、と呑気に付き合ってたら、いつもお出かけの時によく通る、大通りまで突き当たった。
「わ〜!こんなところまできたねぇ!」
正直、だいぶ歩いた。ここまで来るとは。
疲れた疲れた。
だけど、自分の足で、子供と一緒に、歩いてこなければ見られなかった景色。
過ごせなかった時間。
いつも、平日の疲れを言い訳に、前向きに育児に向き合えてなかった。
本当に情けないのだけれど、早く時間過ぎて1人になりたいとすら思ってしまってた時もある。
だけど、今日は一歩踏み出してよかった。
今日という何気ない一日。
この空気、匂い、感情、多分ずーっと忘れない。
少し夕焼けでオレンジがかったような、思い出の一ページ。
「連れてきてくれてありがとね!」
少しだけ、子育てに前向きになれた日だった。
…ただし、帰り道が悲惨だったことだけは付け加えておこう。
もっと先に行きたいと泣き叫ぶ約10kgを小脇に抱えて、ラグビー選手の如く家路を急ぐのであった。
(翌日、もれなく体半分が筋肉痛になった)
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