〔後半〕富士山の五合目を、人生の五合目で訪ねてみる。 | tabi.6
運よく空いていたバスツアー。
私を含めて4組みだけのマイクロバスは
富士山の五合目を目指して登ってゆく。
一つだけ言っておくと、この日の天気は曇。前日の天気予報に関しては雨だった。バスの出発時刻から夜まで雨マーク。前日は何度も天気予報を見返しながら、仕方ないかぁ、と思っていた。
でも運良く曇にとどまった。雨と曇の違いは大きい。靴が濡れたり、荷物が濡れたり、そんなことを気にせず歩けるだけで、少なくとも好奇心に蓋をせずに済むから。
でもガイドさんを兼ねたバスの運転手さんは落ち着かない様子。車が見晴しのいいカーブに差し掛かると、景色が開けると、
「前方に、富士山の……裾野が見えますね!
ほんとなら全体が見えるんですが…今日は曇りなので…。裾野がみえてますね!」
とか。
山部に差し掛かっても、
「はい、右手に富士山があります……がありますが、今日はちょっと……雲で尾根は見えないですね…はは。黒いですねー、夏の富士山は黒いんですよ」
見えるか見えないかより、色の話に切り替わっている。秋以降、晴れる日が多いのだそう。冬の富士山なら、雪をかぶって白い姿が見れるのだろう。
ガイドさんはツアー客一同に配慮してくれている。私は山の天気は変わりやすいと知っていたし、そもそも雨でなく混んでもいないのでラッキーくらいに思っていた。でもお客さんによっては、富士山のツアーに行くからには富士山を見て帰るのが当たり前、という人もいるのかもしれない。
マイクロバスは私たちを乗せてぐんぐん進む。
雲のセーターを着て見えない富士山。舗装された山道は意外と快適ながら。
富士山に到着する直前、世界遺産センターなる場所に立ち寄った。
富士山や周辺の河口湖の地域には、それらをモニュメントのように紹介する施設がいくつかあった。
世界遺産の中でも、自然遺産ではなく文化遺産として登録されたのが富士山だ。ユネスコの世界遺産登録には自然遺産、文化遺産、複合遺産とあり、それぞれ基準が明言化されている。
しばし世界遺産センターを楽しんで、ツア一の一行は再び富士山五合目に向けて出発した。
「霧が出てきましたね〜。道路が見えなくなるとどきどきしますね〜。今日は大丈夫です🙆♀️ はは」
まだ道は見えてるけど、ガイドさんはどきどきしているのが伝わってくる。気を使ってくれてありがとう。山っていうのは天気が変わりやすいのだから。
「おつかれ様でした〜」
かくして、
マイクロバスは五合目に到着。
濃霧にすぽっと包まれていて、
雲って手に取れるの?って錯覚したくなるほどだった。
登山道入口手前の広場には、たくさんの人がいた。これから登る人、休憩する人、みんな山を登る目的の中にいる。
登ってきた人なのか、ザックを枕に休んでいる人たちもいる。どこかの大学の山岳部の人たちだろうか。
私はそんな中にぽんっと入って、この場所の心地よさに気づいた。無防備ではないけれど、無防備な表情でいる人たち。オフの日は、そんな、つくらない中にいたいのかもしれない。心が癒されていくのを感じる。
仕事をする時は、仕事の空気がある方がやりやすい。
でもここは富士山の中腹で、富士山の中腹らしいことがいい。
五合目の広場の奥には神社もあった。
手をあわせて、
思わずおみくじも引いてみる。
ところで本編前半に戻って、
なぜ今日ここに来たくなったかって、頭の中が仕事のことで続きっぱなしの中で、一服したい気持ちだったから。
人生の半分くらいの年齢に来て、
これからどう考えるのがいいのかなって
思ったから。
自分のために、自分の時間を用意した。
会社にいると20代の若手も入ってきて、その頃とは違うなぁと思っていた。上の世代を見ると落ち着いて行く人、諦めていく人、どこかに行ってしまう人も見る。でもそれも違うなぁと思っている。
忙しく、走り去るように過ぎていく毎日。プライベートはいつも、とりあえず、みたいに置き去りになってる。
たぶん今何か考えておかなければ、10年後に何かあって振り返ったとき、走りっぱなしにしたことを後悔すると思った。それで、どこかに行こうと思って選んだのがここだった。
トレッキングは、
今回はしていないのだけどね。
ここには、この先を歩くための杖や、お菓子や、服、準備が足らなかったものが売られていた。休む場所も、レストランもある。
そして、五合目からはたくさんの人が出発して行った。山岳部ぽい人もいれば、旅行会社のツアーと思われる団体さんもいる。私なはその背中を見送った。
来て、見て、良かったと思うことがある。
それは一つのヒントを手にした
感覚を得たこと。
繰り返しちゃうけど、
富士山に登りたいと思って
みな、ここに来ている。
そして、ここにはない、
新しい景色を見ようと
上を目指して出発する。
登山コース入口の一場面なんだけれど、
私には印象強く残った。
登山道の息づかいとともに。
何かにかられて富士山五合目に来て
得た答えは「出発地点」だった。
そんなヒントを得られたことは、
たぶんこれからの私にとって
大事なことになる。
人生の五合目で見た富士山の
五合目の風景は準備と出発。
このヒントから、一年やってみようと。
今までと同じようにがんばるけど、
今年は先の準備のためにね。
学生の頃のように
伸びやかに、スポンジみたいに
吸収する自分で生きよう。
そう思ったら、迷いがなくなった。
来年、もう一度ここを訪れたいな。
次こそは天気も晴れて
富士山が見えることを願って。