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人生コンパスな、辻村深月小説

小説が好きだ。日本語も好きなので、細かなニュアンスを感じられたり、流れるように表現されたりしている文章に惹かれる傾向がある。中でも、心理描写が秀逸で、続きが気になって読み進めたくなるミステリーが大好物だ。

さて、数年前、そんな私の好みにドンドンぴしゃりとハマる作家さんを知る。辻村深月さんである。古本屋で購入する本を見繕っていた時に、手に取り購入した本の中に『ツナグ』があった。当時はすでに映画化もされていたが、私のツナグとの出会いはこのタイミングであった。私は小説が好きだが、あまり市場に詳しくない。たまたま出会って、好きになった人の小説を何冊も続けて読むような癖がある。

こうして『ツナグ』を数年前に初めて読んだ私であるが、数年たった今も心にしっかり残っている話が『親友の心得』の章である。『ツナグ』がどんな小説かの説明は、公式のあらすじを読んでください。

主人公の女子高生には、人より何かが優れている自分、人から評価される自分に価値を感じる-裏を返せば、人より劣った部分がある、評価が下がることは、自分の価値が下がることだと感じている-印象を受ける。そして、そこに強くしがみついてしまっている。

この女子高生がどんな体験をしたか、なぜ死者に会おうと思ったのか、それは私が説明するよりも、小説を読むのが一番良い。

人間は、自分のコンプレックスや心の中にあると自分でも気が付かなかった一面に出くわしたとき、どんな選択をするかで人生が大きく変わる。持論のようだが、そう大きく外れていないだろう。自分が自分の心に対してどうあるか。私にとってこの女子高生の話は、そのことを思い出させてくれる話なのだろう。

この女子高生は、日常の小さな場面で何度も「私の方が知ってるのに」「なんであの子ばっかり」という気持ちに駆られたのだろうと思う。コンプレックスを刺激されや痛みを伴う場面に、何度も出くわしていたのだろう。湧き上がってくる度に、どんな選択をするのか。後悔したくないなら、何を大事にするのかは、結局、日常の小さな出来事に詰まっている。そして、言うは易く行うは難しだからこそ、この話は刺さる。

辻村さんの小説は、登場人物みんなが生きている。読んでいる私の心もめちゃくちゃに揺さぶられる。それでいて、ミステリーならではの騙される楽しさ、驚きも味わえる。もっと早く知りたかったけど、私にとっては今だったんだろう。

こうして、私は辻村さんにハマった。

辻村さんの小説を読むことが私の楽しみのひとつになった。葛藤しながら変わろうとする人、黒い心に呑まれていく人。こういう姿勢で生きる人たちと出会いたい、と思わせてくれるような人。辻村さんの小説でたくさんの人に出会って、嬉しくなったり、なんでそんなことを、と思ったりしながら、私はどうありたいかを、思い出させてくれる。

外に出ずにゴロゴロしたい時なんかでも、辻村さんの小説を読むと人に出会えるのだから、ものぐさにも良い。仕事で「大人にならなければ」と、子どもの心を葬り毎日がつまらないと感じるようになってしまったなら、辻村さんの学園小説を読むと、子どもの感性が刺激されて実生活にもいい影響が出るのではなかろうか。学生にはもちろん、大人にも勧めたくなるのが辻村さんの学園小説である。

働く大人であれば、嫌な取引先の相手との仕事にうんざりしている人もいるだろう。そんな人にはぜひ、『本日は大安なり』を勧めたい。山井多香子さん、本当にかっこいいよ。子どもや家族がいるなら、大切な人を守りながら日常生活を送る同士に出会えると、きっと励まされる気がするので『クローバーナイト』なんてどうだろう。

また色々と読み返して、「こんな人にはこの辻村さんがおススメ」という、誰からも頼まれていない紹介をただ私がしたいからと勝手にしよう。一度読んだ本を、別の時期に再読すると全く違った感想を持ったりするのは、読書が好きな人なら共感してもらえる話だろう。つまり、この試みで少なくとも私一人は良い体験をするので、良いと思う。

知識が増える本からの恩恵もたくさんもらっているのだけれど、やっぱり、心や感性が動く機会をくれる辻村さんの小説も、同じくらい、いや、私にとってはそれ以上に良い。辻村さんの小説が好きな人がこの文章を読んで、「辻村さん、好き!」という気持ちを再確認してくれたり、まだ辻村さんの本を読んだことのない人が「試しに読んでみようか」と思ったり、してくれるかはわからない。
そもそも、なんでこの文章を書こうと思ったのかと思えば、ただ唐突に「辻村さん小説が好きな気持ちを書きたい」という大変自己満足な話だった。


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