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任天堂が大切にしているソフト体質の正体とは?(井上理『任天堂〜“驚き”を生む方程式〜』を読んで)

「任天堂ってすごいよね」

世の中に広く知られ愛されるゲームソフトをリリースしていることはもちろん、企業の業績も好調。ゲーム業界で働く人にとっても任天堂は特別。ゲームファンだけでなく、多くの人に任天堂は愛されている。

2010年代に、3代目社長の山内溥さん、4代目社長の岩田聡さんが相次ぎ亡くなり、企業のDNAが途絶えてもおかしくない状態だった。折しもインターネットが隆盛を極め、ソーシャルゲームという新しいカテゴリーが出てきたタイミング。

エンターテインメントを巡る喧騒、一つ打ち手を間違えれば、途端にプレゼンスを失ってしまう。任天堂がそうなってもおかしくなかった。(だけど、現実は期待を上回り続けている)

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そんな任天堂のことを詳しく知るための参考資料はそれほど多くない。

今回紹介する『任天堂〜“驚き”を生む方程式〜』は、任天堂に取材を許された数少ない書籍だ。(実際にAmazonで「任天堂 本」と検索してみてほしい)

世界規模でこれだけの躍進を演じれば、当然、世界中のメディアが独り勝ちの秘密を明かそうと躍起になる。だが、そのほとんどが門前払いを食らう。それが、任天堂という会社だ。
任天堂は外様に経営を語られることをよしとしない。経営を称えられることすら厭う。だから個別に取材を受けることは、これほど成功している企業であるのに極端に少ない。故にその経営を題材とした書籍も、ほとんどない。
商品に関する広報は幾らでもします。でも、社長の横顔だとか経営体制だとか理念だとか、そんなものは、商品には何の関係もない。僕らの思いは、すべてゲーム機やソフトに込めてある。投資家向けの情報公開も十二分にしている。だから、あえて個別の取材に王いる必要はない。伝えたいことがあればホームページで、その都度やります──。
(井上理『任天堂〜“驚き”を生む方程式〜』P11より引用、太字は私)

逆に言うと、任天堂のことを知る / 理解する上で、本書はとても貴重な資料になる。2009年5月発刊という「古い」書籍に関わらず、書かれていることは現在も通用する発見性の高いものばかりだ。

・ゲームの裾野はいくらでも広がっていける(お母さん、高齢者など)
・任天堂らしさ=徹底した娯楽主義であること
・娯楽とは、人に喜ばれること
・脳トレやWiiフィットがヒットした→健康関連ビジネス、えいご漬けがヒットした→教育事業、という異業種への参入は決して行なわない
・ハードを持ちながら「ソフト体質」にこだわること
・人が驚くのは最先端の技術によるものとは限らない。枯れた技術の水平思考(横井軍平さん)で知恵を絞ることが大切

どれも珠玉の言葉なのだけど、ハードを持ちながらソフトを重視していく姿勢は、なかなか考えづらいことだ。ソフトとは、ハードやプラットフォームに依存するため、主従関係ということを考えると「主」であるハードに力を入れることが理にかなっているからだ。(言い換えると多くのプロバイダーは、ハードやプラットフォームを作りたいと思っている)

「任天堂にはセクショナリズムが強く、与えられた部署で虎視眈々と商品開発を行なっている」とあるので、決してハードを作っている方々が手を抜いているわけではない。(それは任天堂のハードに触れた人なら誰しも同意いただけるだろう)

ゲームファンを喜ばせ、驚かせるハードを作った上で、ちゃんとソフトで熱狂させる。

文字にすると当たり前のことだけど、そこを両立できる企業は数えるほどしかない。

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本書は、山内溥さんの言葉で締め括られている。

アイデアが枯渇して、何をしていいのかわからなくなったら、社業をやめなきゃしょうがないよね。そんなことで行き詰まったら何をするの。何もすることがないやないの。ハードの会社?なれないよ、そんなの
得意技を発揮できないのであれば、守り抜かねばならないものを失うくらいならば、廃業したらいい。刀が折れ、矢が尽きてしまうのであれば、任天堂は終わるまでだ。
そんな揺るぎない覚悟を持って、任天堂は今日も、方程式に様々な種を入れては解を模索している。
(井上理『任天堂〜“驚き”を生む方程式〜』P304より引用、太字は私)

この矜恃が脈々と受け継がれていく限り、任天堂はいつの時代も、人を驚かせる楽しいゲーム(の在り方)を提供してくれるはずだ。

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* おまけ *

井上理さんの『任天堂〜“驚き”を生む方程式〜』ですが、読書ラジオ「本屋になれなかった僕が」でも配信予定です。2/25(木)16:00〜公開しますので、よろしければ聴いてください。

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ほりそう / 堀 聡太
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