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過去の恋が、夫婦を、人間を変えていく。(映画「愛と激しさをもって」を観て)

約10年間、現在のパートナーと順風満帆な生活を送っていたサラの前に、かつての恋人フランソワが久々に姿を見せる。

激しく動揺するサラの気持ちを知ってか知らずか、パートナーのジャンは彼とともに新しい事業を立ち上げることを告げる。

本音と建前、そして何気ない嘘が交差しながらの愛憎劇。

「愛と激しさをもって」
(監督:クレール・ドゥニ、2022年)

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たかが愛、されど愛。

すでに終わったはずの過去の恋が再燃し、夫婦を、そして人間そのものを変えていく物語だ。

主要の登場人物は、口数の少ないジャン、社交的なサラ、やり手の実業家フランソワの三人だ。

よくあるキャラクター設定のようだが、本作の登場人物は40〜50代。いわゆる「中年」の域に達した男女が、「なぜここで浮気してしまうのだろう?」という感じのやりとりが繰り広げられる。

……ということもあり、僕も最初は作品に入り込めなかった。けれど、ささいな嘘や違和感から物語がぐるぐると回転し始めてから一気に面白くなった

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本作はコロナ禍のフランスが舞台だ。人々はマスクをして過ごしているが、マスクで口元が見れない登場人物の心中を、観客は役者の「目」だけで窺わなければならない。

しかしどうしても、口元が見えないため彼らの本音は分かりづらい。だがじわじわと気付いてきたのだが、実は観客だけでなく、登場人物たちも同様に「相手のことが分からない/分かりづらい」という状態だったのだ。

誤解や違和感がすれ違いの要因として積み上げられ、結末につながっていく。

例えば、こんな会話だ。序盤ですれ違い始めたジャンとサラの前に、久々に現れたフランソワがジャンを共同事業に誘うシーンで。

サラ:彼と会うことに何か気になるの?
ジャン:何も。君こそ。
サラ:むしろ私はうれしいわ。

繰り返すが、ジャンは口数が少ない。必要最低限の言葉しか発さない。

おそらくフランソワが現れる以前から、サラとは必要なことしか言葉を交わさなかったのだろう。それをサラも「別に良い」と思っていたはずだが、フランソワの話題だったらそうはいかない。彼女は、現在のパートナーであっても(あるからこそ?)ずいずいとフランソワのことを聞き出していく。

ジャンのいない場所で逢瀬を繰り返すサラとフランソワ。妻が少しずつ変わっていく様子に、口数の少なかったジャンも苛立ちを隠せなくなる。浮気の場面を掴んだジャンは、サラに詰め寄る。

サラ:私を支配するのはやめて。
ジャン:そうするさ
サラ:深く愛した人だから、過去が一瞬よみがえるの。
ジャン:だったら出ていくよ。過去がよみがえるんだろ?

サラのちょっとした嘘と言い逃れ。
ジャンの言ったら引けなくなるスタンスと言葉足らずな性格。

物語のポイントは「傷つく/傷つけられる」ということ。これらの間で揺れているふたりの姿はあまりに哀しく、共感したくないのに引き込まれてしまう。

観客も巻き込んだ誤解によって、新たな傷を生み出してしまったふたり。物語の行く末が決まっていくプロセスに、何だかとってもヒリヒリしました。

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本作で監督を務めたクレール・ドゥニは、第72回ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞。現在、配信で鑑賞できるのはWOWOWオンデマンドのみです。

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ほりそう / 堀 聡太
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