祝!直木賞受賞 河崎秋子著「ともぐい」〜“エンターテインメント“を超越した作品
河崎秋子が上梓した「ともぐい」(新潮社)が第170回の直木賞を受賞した。先日書いた通り、この小説は直木賞の枠を超えていて、受賞しないのではないかと思った。誤解を生じさせないために、最初に言っておくが、本当にめでたい、うれしい!
改めて、直木賞の主催者である日本文学振興会のサイトを見ると、“よくあるご質問“として次のようなことが掲載されていた。
<Q. 芥川賞・直木賞の違いを教えて下さい。A. 芥川賞は、雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから選ばれます。直木賞は、新進・中堅作家によるエンターテインメント作品の単行本(長編小説もしくは短編集)が対象です。>
河崎秋子の「ともぐい」は、果たして“エンターテインメント“なのか?
広辞苑第七版によると、“エンターテインメント“は<娯楽。演芸。余興。>とある。直木賞のQ&Aで使っている意味は“娯楽“であろう。第160回以降の直木賞を眺めると、受賞15作品のうち「ともぐい」を含め7作品を読んでいた。「ともぐい」以外は、“エンターテインメント“と言って良いと思う。(もちろん、エンタメを超えた深みがあるのだが)
「ともぐい」は、“娯楽“とはちょっと違う次元にある小説である。
したがって、この小説を紹介するのは難しい。例えば、毎日新聞の直木賞受賞記事にはこう書かれている。<明治後期の北海道。山中で一人暮らす孤高の猟師・熊爪が、冬眠をしていない熊「穴持たず」との戦いや町に住む少女との出会いを通して、変化していく様を描いた>。
読んだ人間からすると、よくまとめていると思うが、未読の方にとっては、あまりイメージはわかないように感じる。本の帯には“熊文学“と書かれているが、これまた意味不明である。
簡単にまとめようのない小説なのだ。冒頭、熊爪は鹿を狩る。その場で鹿をさばき、取り出した肝臓を切り食す。(Amazonの“サンプルを読む“に含まれている)そんな“猟師“である。そもそも、彼は“猟師“なのだろうか。“少女との出会い“はあるが、あれは一体何だったのだろう。とにかく小説を読まなければ、決して分からない。
そして、この熊爪(人間の名前と言えるのか?)の生き様、読み始めたら止めることはできない。そう、読書という行為そのものを“娯楽“と捉えるならば、「ともぐい」は、“ページターナー“、早く続きが読みたくなる小説である。
河崎秋子については、「絞め殺しの樹」(小学館)についての感想記事に記したので、ご興味のある方は参照されたい。彼女の小説を読むには、それなりの覚悟とエネルギーが必要だと思っていたが、「ともぐい」でそのことを確信した。
直木賞の枠組みを超えた重厚な作品、北海道の地で生活し自然や動物との共生という“現実“を知る彼女にしか書けない小説だと思う
*受賞インタビューは、最後に「ちょっとこれはマナー違反(直接的なネタバレ)では?」と思う質問が出ているので、本書を読まれる方は、読後に目を通されることをお勧めする
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