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ヒッチコックが観たくなり選んだ映画は〜「第3逃亡者」初見?それとも?

「ヒッチコックの映画術」を観たら、俄然彼の映画を観たくなった。見直しか、それともまだ手をつけていない作品にするか。U-NEXTで配信されているリストを眺め、直感的に選んだものは「第3逃亡者」(1937年)。観たことあるようなないような。思い出せないので、とにかく観ることにしましょう。

映画が始まると、いきなり男女の口論のシーン。クリスティンという名の妻をなじる夫。彼女が浮気していると主張、クリスティンは夫の顔を平手打ちする。夫が戸外に出ると、夜の海が荒れ狂っている。

続くシーンは明るい海、彼方に灯台が見える。カメラが移動し波打ち際を写すのだが、そこには女性の体が打ち上げられる。そして、幅広のベルトのようなもの。砂浜の上方を歩いている若い男性が打ち上げられた体を視認し近づき、「クリスティン」と口にする。そして男は死体を後にし、浜辺を走り去る。

続いて登場する若い二人の女性、浜辺で日光浴とやってきたが死体を発見する。先ほどの若い男、二人の女性、そして警察が現場を見分するのだが、女性らの証言により若者は容疑者となってしまう。

映画が始まってものの5分で導入部が一気に提示され、若者ロバートは警察の手から逃れる“逃亡者“となってしまう。ヒッチコック監督お得意の、“まきこまれ型“のドラマのスタートである。

彼の逃亡に関与する若い女性エリカ、警察署長の娘でこの映画の主役。演じるのはノヴァ・ピルビーム。彼女はヒッチコック作品の中でも名作の誉高い「暗殺者の家」(1934年)で娘役を演じている。

「第3逃亡者」の原題は「Young and Innocent」、ロバートとエリカ双方を指していると思うが、力点は女性の方にある。つけられた邦題も、第1が本当の犯人、第2がロバート、そしてエリカを第3としたのではないかと想像する。

例によって、ハラハラドキドキの中に、イギリス的ユーモアもたっぷりのヒッチコック映画なのだが、エリカがとてもチャーミングである。「ヒッチコックの映画術」の中で使われたシーンも、通してみるとその効果がより分かる。

観たことあるような気もするけどと思いながら鑑賞していたのだが、クライマックスの場面ではっきり思い出した。これは観たことがある。極めて印象的なシーン、一度見たら絶対に忘れない、ただ私の中でこの映画とは結びつかなかったのである。

ヒッチコックとトリュフォーの対談本「定本 映画術」をひもといてみた。

するとフランソワ・トリュフォーも、本作はずっと前に見たきりだが、<ラストシーンだけはいまでもはっきりおぼえている。当時いっしょに見た仲間たちもみんなこの映画の素晴らしさに圧倒>(「定本 映画術」より)と話している。このクライマックスには、トリュフォーが驚嘆したワンカットのダンスホールのシーンがある。ヒッチコックによると、<あのワンカットの移動撮影だけのために二日間かかったものだよ>(同書)とのことである。

なお、原作はジョセフィン・テイの「ロウソクのために一シリングを」、同作者の「時の娘」に登場するグラント警部初登場の小説らしい。「時の娘」は、オールタイムのミステリーベストといった試みで必ず登場する名作。手元にあった2013年刊行の週刊文春臨時増刊「東西ミステリーベスト100」を試しに見てみると、海外篇の36位。こちらも未読だ、“Sigh....“

いやぁ、ヒッチコックは面白い。もっと見ようかな


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