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著…夢野久作 絵…ホノジロトヲジ『死後の恋』
街の風景に紛れるような、村人Aみたいなおじいさんにも、実はドラマチックな恋の経験があるのかも…?
と想像させてくれる哀しい小説。
現代人が読むと眉を顰めてしまう差別的な表現がありますし、戦争の残酷な描写もあるので、好き嫌いがはっきり分かれると思いますが、わたしはこの作品が好きです。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
おじいさんが語る恋物語は悲劇そのもの。
真実なのか、妄想なのかは分かりません。
それは誰が聞いても「狂っている。きっと戦争による心の傷でおかしくなったのだろう」と断じるであろう荒唐無稽な話。
おじいさんはその話をただ聞いて「実際にあり得る」と肯定してくれる人を探して彷徨っているのですが…。
誰もが否定するばかり。
おじいさんは「誰かに私の運命を決定して欲しい」という願いも抱いているのですが、それが叶えられることはありません。
おじいさんは淋しくて淋しくてたまりません…。
わたしは「もし自分がおじいさんにこの話を聞かされたらどうするだろう…?」と想像しながらこの作品を読みました。
わたしはただ黙って聞き、「信じます」と言ってあげたい気持ちでいっぱいになりました。
だって、それが事実かどうかは問題ではないから。
それはおじいさんにとって紛うことなき真実の物語なのですもの。
…それに、おじいさんの話は、大切なことを教えてくれるから…。
自分にとって大事なものが何なのか見誤ってはいけない。
恋する相手を喪ってから自分の気持ちに気づいても、取り返しはつかない。
このおじいさんのように心が毀れてしまうということを…。
ただ、おじいさんの言う「誰かに私の運命を決定して欲しい」という願いは、わたしには叶えてあげられそうにありません。
それはきっと、おじいさんが恋する相手のあとを追って死ぬという意味でしょうから。
それに関しては肯定してあげられません。
絶対に…。
〈こういう方におすすめ〉
狂気の悲恋物語を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
1時間くらい。
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