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著…村田沙耶香『地球星人』

 読み心地も読後感も最悪の小説。

 人によっては吐き気を催すでしょうし、心の傷が開くかもしれません。

 でも、出来ることなら、一人でも多くの人に読んで欲しいです。

 この最悪さを現実世界で実際に味わっている子どもたちの存在に目を向けて欲しいから…。



 ⭐️Kindle版



 ※注意
 以下の文には結末までは明かしませんが重大なネタバレを含みます。
 また、とても残酷な描写を含みます。



 住宅地を見て、

ここは巣の羅列であり、人間を作る工場でもある。私はこの街で、二種類の意味で道具だ。一つは、お勉強を頑張って、働く道具になること。一つは、女の子を頑張って、この街のための生殖器になること。私は多分、どちらの意味でも落ちこぼれなのだと思う。

(著…村田沙耶香『地球星人』P41から引用)


 と考えるほど感受性豊かな女の子・奈月が塾講師から猥褻行為をされるくだりを読んで、わたしは頭痛を覚えてこの本を一旦閉じ、奈月を助けてこの塾講師を殺処分したい衝動に駆られました。

 ところが、奈月から「先生が変なの」と相談された奈月の母は、「あんたみたいな未熟な身体の子、先生がそんな目で見るわけないでしょうが。あんたがいやらしいからそんな風に思うだけよ。汚らわしいのはあんたじゃないの」と、とんでもないことを言い放ちました。

 塾講師から性的虐待を受けているのは事実なのに、奈月は誰にも相談出来ません。

 …わたしはまたこの本を一旦閉じて、奈月の母をぶん殴りたい衝動に駆られました。

 奈月が「あのね、私の『口』、この前壊されちゃったの。だから何の味もしないし、私のものじゃなくなっちゃったんだ」と従兄弟の由宇に打ち明けるシーンが切ないです。

 …これは小説ですが、現実にもこうして性犯罪被害を受けている子どもたちは沢山いることでしょう。

 最悪ですよね。

 本当に最悪。

 周りの大人がいち早く気づいてすぐに助けるべきなのに。

 たいてい密室で行われるでしょうし、奈月の母みたいな人がいたら子どもたちはSOSを出しづらいでしょう。

 奈月は大人になってからも「私の身体は故障したまま」と認識し続けています。

 やがて、「性行為なし・子どもなし・婚姻届あり」を条件に結婚相手・智臣を見つけます。

 智臣は握手以上のスキンシップを望まず、共有スペースでの肌の露出も控えて欲しい、と希望しました。

 お互いに家族の監視から逃れるために結婚相手を探していたため、二人の出会いはまさに良縁だったと言えます。

 ところが、周りの人々は、夫婦なのに性行為をせず、子どもを持とうとしない奈月たちを「異常」「離婚して若い女をあてがえば子どもが出来る」「母になることは素晴らしいのに」などと罵倒します。

 本人たちが望んでいない子作りを周りの人たちが「常識」と信じ込んで強要してくるくだりも、読んでいて非常に不気味です。

 はっきり言って気持ち悪い。

 子孫を残したい人は残せば良いし、残したくない人は残さなければ良いだけのことなのですが、子孫を残そうとしない人を勝手に「異常」と決めつけるのはもはや狂気。

 奈月たちは「人間工場」で新しい人間を生み出すための「部品」扱いされることに疲れ果てました。

 そして、こんな考えを持つようになりました。

 自分たちは他の星から来た宇宙人だから、地球では生き辛い。

 けれど、宇宙船が無くて母星に帰ることが出来ない。

 だから、地球で生き抜くしかない。

 …と。

 そして…、生き抜くために、衝撃的な選択をしました。

 …結末が超展開過ぎて非常にショッキングなので賛否両論があると思いますが、わたしはこの作品は新風を起こしてくれたと思います。

 登場人物たちの誰が正常で誰が異常かなんて誰にも分からないままなのも良かったです。

 わたしは読後、「奈月みたいな目に遭っている子どもが近くにいないか?」と今まで以上に気を配るようになりました。

 そういう意味でもこの小説を読んで良かったです。

 読んでいる間じゅう、頭が痛かったけれど…。



 〈こういう方におすすめ〉
 残酷な描写を読んでも体調が悪くならない方。

 〈読書所要時間の目安〉
 3時間半くらい。

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