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文…中脇初枝 絵…佐竹美保『ゆきおんな』
世の中には、雪女を題材にした絵本が数多くあります。
これは、その中でも特に、雪女自身の切ない心情を想像させてくれる作品。
怪物としてではなく、一人の女性としての哀しみが描かれています。
⭐️単行本版
※注意
以下の文は、結末まで明かすネタバレを含みます。
未読の方はご注意ください。
あらすじは、巷によくある「雪女」とほとんど同じ。
ある一人の男性が、子どもの頃に雪女と出会います。
しかし、命はとられずに済みました。
「雪女と出会ったことを決して誰にも話さない」と約束したからです。
やがて男性が大人になった頃、美しい娘が現れます。
娘の正体は雪女。
もしかしたら、雪女は当初、「男性が誰かに秘密を話せば命を奪う」ということを主な目的として近づいてきたのかもしれません。
しかし…。
そばにいるうちに、二人は自然と惹かれ合いました。
情がわき、それが愛情へと変わるのに、そう時間はかかりませんでした。
やがて二人は結婚。
沢山の子宝にも恵まれました。
共に働き、共に子育てをする二人。
その様子はとても幸せそうです。
しかし…。
幸せな日々がいつまでも続くかのように思われた、ある日。
男性は約束を破ってしまいます。
何の悪気もなく。
雪女と出会った日のことを、あろうことか雪女自身に話してしまいました。
「ダメ」と言われたことをついやってしまいたくなるのが、人間のサガなのでしょうか…?
約束を破られた以上、もう一緒には暮らせません。
おそらく、雪女は本来、約束を破られた以上、男性や子どもたちの命をとらなければならなかったのかもしれませんが、
「ころすにころされねえ。」
と苦悶の表情を浮かべながら雪女は去っていきます。
一番末の子どもだけを抱いたまま…。
この絵本を読み終えた後の、しんとした余韻が美しくも悲しいです。
雪女の見えない涙が見える気がして…。
雪女と子どもはどうなってしまったのでしょうか…?
そして、男性と、残された子どもたちは…?
〈こういう方におすすめ〉
「怪物」としてではなく、「一人の女性」として描かれた雪女の物語を読んでみたい方。
〈読書所要時間の目安〉
20分〜30分くらい。
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