著…北杜夫『どくとるマンボウ青春記 改版』
軽妙な語り口で綴られたエッセイ。
⭐️文庫本版
※備考
わたしが今回読んだのは中公文庫の1990年刷のものです。あまりに古くてAmazonに無いので、新潮文庫版のリンクを代用させていただきます。
全体的に面白いエピソードが多いので、読んでいて思わずクスッと笑ってしまうこともあります。
しかし…、著者の少年期〜青春期と第二次世界大戦のタイミングは重なってしまいました。
当時の著者にとって、戦争は日常の一部でしたから、どのエピソードも決してお涙頂戴の論調では描かれてはいません。
むしろ、戦禍にみまわれながらも著者なりに仲間たちと一緒に楽しみを見出していたことが綴られていて、読者に笑ってもらおうとしているフシさえ感じます。
しかし…、わたしは「笑って良いのか泣いて良いのか分からない」という複雑な気持ちでこの本を読みました。
なぜなら、著者が送ったのは、今の子どもが送る少年期や青年期とは全く異なるものなのですから。
特に、著者が子ども時代にお腹を空かせていたエピソードを読むと、胸が痛くなります…。
飢餓感。
それは、その後の著者の人生にも色濃く影響を与えています。
あらゆる意味で、やはり戦争というものは残酷ですよね…。
それでも、著者は学徒動員で働く、空襲警報で逃げる、自分の家が空襲で焼けるといった体験をしながらも、父親の書斎から自分に読めそうな本を捜して読んだそうです。
終戦後の混乱のさなかにも、友人の本・図書室の本含めて「なんでもござれ」と読み漁ったそうです。
やがて、作家を目指すようになりました。
わたしはこうしたエピソードに感銘を受けました。
戦争は人を救いませんが、本には人を救ってくれる力がありますね。
本を読むのも良いですし、本を書くこともまた、人を救ってくれます。
いずれも大変な道のりではありますが…。
また、わたしは著者のこんな一文にも共感しました。
た、確かに!
〈こういう方におすすめ〉
日常の中に戦争がある、そんな少年期・青年期を送った人物のエッセイをお探しの方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。