著…朝井まかて『残り者』
こんばんは。
江戸城明け渡しについて、大奥の女性視点で読みたい人におすすめの小説をご紹介します。
日本の歴史の中でも特に幕末が好きで、しかも天璋院篤姫のファン、という方には堪らないと思います。
江戸城明け渡しの直前。
多くの女性たちが大奥から慌てて逃げたにもかかわらず、大奥に留まった5人の女性「りつ」「お蛸」「ちか」「ふき」「もみぢ」の物語です。
この女性たちと天璋院篤姫の関わり、そして静寛院宮(和宮)のエピソードが、とても切なく描かれます。
大奥は女性ばかりの場所。
いわれのない陰口や告げ口、出世争いがあり、豪華絢爛ながらも「女の地獄」のように思われがち。
しかし、大奥づとめをすれば俸禄を頂いて、自分の身を自分で養えます。
大奥は、これまで仕事に励んできた思い入れの強い場所。
そして、天璋院篤姫という立派な主に仕えるという喜びが身に沁みている場所。
主からほんの少し褒めてもらえた、ただそれだけの出来事が決して失う事のない宝物として心に焼き付いた場所。
そこから皆が居なくなって、あんなに賑やかで華やかだった場所が、しんとしている…。
「残り者」たちの心情を思うと、わたしは思わず貰い泣きしました。
早く江戸城から立ち去らなければ官軍に殺されたり暴行される恐れがあるというのに、大切な主の大切な飼い猫を保護しようと必死で探す女性の気持ちにも共感出来ます。
また、生家が無かったり、生家はあっても今さら帰れなかったり、大奥こそが自分の家だからその最後を見届けたいと思っていたり…。
役割も身分も大奥に残った理由もそれぞれ違いますが、どの女性にも共感出来る点があります。
千人近い女性が働いていた頃は深く言葉を交わすことの無かった女性5人が、江戸城明け渡しという大きな出来事をきっかけに出会う…。
素敵な小説です。