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著…豊島ミホ『初恋素描帖』
中学生の恋模様を、なんと20人分も描いた短編小説集です。
⭐️Kindle版
⭐️文庫本版
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
中学生時代にかえりたいような、かえりたくないような、でもやっぱりかえりたい!
そんな気分にさせてくれる本です。
好きな人が出来て、ドキドキして。
好きな人の「好き」の視線が他の誰かのものになって、さびしくて。
好きな人の「好きな人」になれなくて。
苦しくて。
この本を読んでいると、そんなあの頃に戻りたくなります。
実際はわたしにはそんな甘酸っぱい思い出なんてなかったのに、不思議ですよね。
さて、初恋を描いた小説は世の中に数えきれないほど沢山あります。
初恋の人と結ばれない、そんな主人公たちは大勢いるのです。
この本に出てくる主人公たちもそう。
この本の特徴は、「大好きな人がいるからといって、必ずしもその人と恋人になりたいわけではない」ことをも描いていること。
例えば、この本に登場する師岡康二くん。
彼は安西めいちゃんを天使のように愛おしんでいます。
彼は自分の外見と中身をよく知っています。
痛いほどよく分かっています。
自分と彼女では釣り合わない、ということを。
彼は、もしかしたら自分の好意を彼女が知ったらショックを与えてしまうかもしれないと思ったようです。
彼は彼女宛のラブレターの封筒に、差出人の名前を書きませんでした。
また、きっと筆跡から自分が突き止められるのを恐れたのでしょう、便箋も入れませんでした。
彼はただ、封筒の中に、彼女のように優しくて愛らしい桜の花びらを入れて贈ったのでした。
それを見て、彼女は「きれい」とやわらかく笑いました。
そして彼は、その笑顔を見て喜んだのでした。
…なんて淡いのでしょう。
桜の花びらのように淡い恋。
はかなくて、純粋で、とても清らか…。
〈こういう方におすすめ〉
初恋を描いた短編小説を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間くらい。
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