著…森見登美彦『【新釈】走れメロス 他四篇』
こんばんは。
文豪の作品を読んでみたいけれどちょっとハードルが高いな、と思っている方におすすめの本をご紹介します。
中島敦先生の『山月記』、芥川龍之介先生の『藪の中』、太宰治先生の『走れメロス』、坂口安吾先生の『桜の森の満開の下』、森鴎外先生の『百物語』を、森見先生ならではの不思議な世界観で新釈した短編集です。
原作ファンの中には「パロディにも程がある」と眉を顰める方もいるかもしれませんが、原作ファンのわたしはモリミーワールド全開のこの短編集に笑い転げました。
まずはハードルの低いこの短編集を読んでから原作を読む、という流れでもアリだとわたしは思います。
森見先生といえば、小説の舞台はたいてい京都で、登場人物の多くはモテない大学生。
この本においてもそれは同じ。
例えば「走れメロス」の主人公は芽野史郎(めのしろう)という京都在住の大学生です。
森見先生にかかれば、『走れメロス』は、もしも芽野史郎が日没までに大学へ戻らなければ、友人•芹名雄一(せりなゆういち)が『美しく青きドナウ』に合わせて桃色のブリーフ一丁で踊らなければならない、という奇妙なストーリーに早変わり!
わたしはもともと森見先生の作品が好きなので耐性があるつもりだったのですが、電車の中でこの本を読んでいて何度も吹き出しそうになり、「わたしは咳き込んだだけですよ」という演技をしてごまかしました。
ですから森見先生の作品を初めて読むという方は、是非自宅で読みましょう!
初見でこの本を公共交通機関利用中に読むのは…キケンだ!
また、この本においても、「桃色」「詭弁論部」など、森見先生の作品お馴染みのキーワードが時折出てくるため、初めて読む方は「何のこと?」と戸惑うかもしれませんが、ファンとしてはこれらのキーワードが出てくる度に思わずニヤリとしてしまいました。
「あれ? さっき読んだ作品に出てきたはずの登場人物がこっちの作品の登場人物とも知り合いだぞ!」と驚くような書き方がなされているのも興味深いです。
それだけではありません。
森見先生の作品にはたまにあることですが、先生までもが登場人物の一人として『百物語』に出てきます。
登場人物たちがそんなことには全く気づかず「森見」と呼びかけるのを読んでいて、わたしは「あなたたち! そのひと、あなたたちの生みの親よ!」と教えてあげたくなりました。
とはいえ、この本の全ての作品が笑える内容というわけではありません。
特に『山月記』と『桜の森の満開の下』には、胸を締め付けられました。
たとえようのない寂しさをも感じさせる作品です。