著…ロスタン 訳…渡辺守章『シラノ・ド・ベルジュラック』
こんばんは。
「切ない恋物語を読みたい」という方におすすめの本をご紹介します。
特に、「今片想い中だ」という方におすすめ。
戯曲なので、まるで劇場でお芝居を観ているかのようなイメージを膨らませながら読めます。
※注
結末までは明かしませんが、以下のあらすじにはネタバレを含みます!
〈あらすじ〉
この物語の主人公は、容姿(鼻が大きい)に強烈なコンプレックスを持つ男・シラノ。
シラノはロクサーヌという女性に片想いをしています。
しかしロクサーヌはそのことを知りません。
ロクサーヌにとってシラノは「仲の良いイトコ」。
ある日、ロクサーヌはクリスチャンという美青年に恋をしました。
クリスチャンもロクサーヌに好意を抱きました。
ロクサーヌは「あの方なら、仰る言葉はすべて美しうございますわ」と思い込んで、クリスチャンから素敵な恋文が届くのを楽しみにしていました。
しかし、クリスチャンは口下手。
文才もありません。
そこでシラノは大胆な行動に出ました。
シラノは、ロクサーヌが望む通りのロマンチックな恋文を書くことにしたのです。
…クリスチャンの名義で。
恋文の中にそっと、シラノ自身のロクサーヌへの心からの想いも滲ませながら。
何通も、何通も、何通も…。
ロクサーヌはその情熱的な恋文を書き続けているのはクリスチャンだと信じ込み、すっかり夢中になってしまいました。
やがてロクサーヌとクリスチャンは結婚。
シラノは幸せそうなロクサーヌを優しく見守っていました。
しかし、ある日クリスチャンは「ロクサーヌは自分ではなく恋文の主を愛している」と絶望したまま戦死。
その後もシラノは、恋文を書き続けていたのは本当は自分なのだということも、愛しているということも、決してロクサーヌに明かそうとはしませんでした。
しかし、ある日シラノは致命傷を負ってしまい、最期にロクサーヌのもとを訪ねます。
以上があらすじです。
結末は是非読んで確かめてみてください。
わたしが初めてこの物語を読んだのは小学生の頃だったと思います。
当時のわたしは、恋がどういうものか知りもしないのに、「悲しい三角関係だな。恋は人を大胆にもするし臆病にもするのだな。〝当たって砕けろ〟の精神で、思い切って告白すれば良かったのに」と分かったようなことを思いました。
しかし、大人になるにつれ、わたしはシラノの気持ちに共感するようになっていきました。
好きだからこそ、「好きだ」と言えないことってありますよね。
当たって砕けろ、なんて無理。
もしも好きな人に想いを伝えて拒絶されてしまったら、本当に自分の心が砕けてしまうから。
もしも思い切って想いを打ち明けて気まずくなり、これまでのように親しく出来なくなるくらいなら、いっそこのまま恋心を秘密にして「仲の良いイトコ」としてずっとそばにいよう…、とシラノは思ったのかもしれません。
好きな人の好きな人は自分じゃない、と気づいた時の、胸を引きちぎられるような痛み。
好きな人に振り向いてもらえるような魅力が自分には無い、と察してしまった時の悲しさ。
好きな人には幸せになって欲しい、好きな人の喜ぶ顔を見たい、好きな人の笑い声を聞きたい、という優しさ。
そういった複雑な気持ちが入り混じって、シラノは恋文のゴーストライターという道に走ったのかもしれません。
シラノの愛の形を「不器用だ」と笑う人もいるでしょうが、わたしには笑えません。
シラノと一緒になって泣きたいくらいです。
シラノはロクサーヌのそばに居られるだけでも幸せだったのかもしれませんし、自分の幸せよりもロクサーヌの幸せを最優先にしたのでしょうけれど…、シラノの本音はどうだったのでしょう?
その心の中を想像すると、やっぱりシラノと一緒になって泣きたくなります。
きっと、シラノやわたしのような気持ちになっている方は世の中に沢山いると思いますので、そういう片想い中の方に是非この物語を読んでいただき、自分の気持ちと重なる部分を探してみて欲しいです。