作…ジャン・ジオノ 訳…寺岡襄『木を植えた男』
不毛の土地。
そこに木を何年も何年も植え続け、豊かな森へと変えた老人エルゼアール・ブフィエの物語。
※注意
以下の文は重大なネタバレを含みます。
この本には、あるエピソードがあります。
1953年、この本の作者であるジャン・ジオノはアメリカの編集者から「実在した忘れえぬ人物」についての執筆依頼を受け、この物語を書きました。
「実在した」というお題に反して、実はブフィエ老人は架空の人物。
しかし、ブフィエ老人自身はいなくとも、ブフィエ老人のような人々が、作者の故郷フランスのプロヴァンス地方にはいたのです。
彼の父親も、そのうちの一人。
父親は幼い彼を連れて、よくドングリを植えていたそうです。
たとえ有名にはならなくとも、昔から沢山の「ブフィエ老人たち」が木を植え、豊かな森を作ってきたのです。
作者はそういう意図でこの作品を書き、この作品の著作権を放棄して、世界中の誰もが様々な形で読めるようにしたそうです。
そのおかげでこの作品は世界中の人々に繰り返し読み継がれています。
…というエピソードを読んだ方のリアクションは、恐らく真っ二つに分かれるのではないでしょうか?
「実話だと思って感動したのに騙された」
と失望する方もいるでしょうし、
「たとえブフィエという名前の老人自身は存在しなかったとしても、この物語に込められたメッセージに心を打たれた」
という方もいるでしょう。
わたしの場合は後者でした。
ブフィエ老人は何度も失敗を経験しながらも、それでも手を休めることはありませんでした。
何年も何年も木を植え続けました。
即物的な見返りなど考えもせず。
そして、不毛の土地を豊かな森に変えただけでなく、故郷の人々の荒んだ気持ちまでも変えてみせました。
それでも、ブフィエ老人は「木を植えたのは自分だ」と人々に名乗ることはありませんでした。
しかし、本当に満足していたことでしょう。
わたしもブフィエ老人のような人になりたいです。
だって、ブフィエ老人は、自分が心の底から望むものが何なのか知っているから。
〈こういう方におすすめ〉
美しい本を読みたい方。
〈読書所要時間の目安〉
1時間くらい。