著…黒野伸一『AIのある家族計画』
イヤホンのように耳にはめ込むだけで、電話やメールの受け答え、調べ物をしてくれるだけでなく、利用者の個性や性格を見抜いて各人に合った最良のアドバイスをしてくれるAIフォン「ミクロイドII」。
接客用女性型アンドロイドとして開発され、会社の受付やキャビンアテンダントとしてなど多くの職場で愛されて、恋人として愛する人も続出して社会現象となった「ことね」。
カプセルに入って意識をヴァーチャル空間に飛ばすことで、理想の外見と人生を歩んでいるキャラクターになれる「Vドライブステーション」…。
これは、そんな夢のような技術が当たり前に流通している未来が舞台の小説。
SFの世界観が好きで、特に映画『ブレード・ランナー』のように人間側よりもロボット側に感情移入出来る作品が好きな方におすすめです。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
この小説の世界は、なんと、人間の就職先を見つけるのが難しく、ロボットがロボットのレンタル販売をしているという世の中です。
ロボットが人間の上司となって、人間にあれやこれやと指示を出すこともあります。
あくまでも法的にはロボットはロボット。
人間と同等の人権は認められていません。
しかし、この小説を読んでいる限り、わたしには人間とロボットに大した差は無いように思えてきました。
人間とロボットの大きな違いは、生身の女性の体から生まれたかどうかということと、ロボットは一度学んだことを絶対に忘れないけれど人間は忘れてしまうどころか勘違いすることさえある…ということくらいではないでしょうか?
死の恐怖があるか無いかも論点になるかと思いますが、それについては判断が難しいところ。
人間は死んだらおしまい。
けれど、ロボットは別のAIに自分の経験をアップロード出来ます。
だから不死であると言えなくもないのですが、たとえデータをアップロードした後であってもロボット本体が停止するのであれば、それはやっぱり「死」であるという気がします。
この小説に登場するロボットも、死に直面した時、死にたくない! と心の底から叫んでいます。
死ぬのが怖いのは人間もロボットも変わりません。
ロボットにも、今後やりたいことが沢山あるはず。
きっと心だってあるでしょう。
ロボットに心があるわけないじゃん、という人も居るかもしれませんが。
では、「自分の心はどこから来たの?」と聞かれてすぐに答えられる人がどれだけ居るでしょうか?
少なくともわたしは即答出来ません。
もしも、生身の人間には心があって、ロボットには心が無くて当たり前と言うのであれば、心ある者がやるとは到底思えない凶悪犯罪が今もなお現実世界で頻発しているのは何故なのでしょうか?
…わたしはこの小説に登場するロボットの生き方を読んでいて、そんなことをつくづく考えさせられました。
人間もロボットもそう変わらない、と。
心はどこにどんな風に存在するのは分からない、と。
もしかしたらわたし自身も、自分は人間だと思い込んでいるだけで、実はロボットかもしれません。
現実世界の日本で働いているロボットが粗末に使われたり捨てられたりしたら、わたしも悲しくなります。
人間だってボロボロになるまで働かされた挙句ポイされるのもしょっちゅうなので、廃棄されたロボットのことが他人事とは思えません。
まだ使えるのに捨てられている機械を見かけただけでも、胸がギュッとなります…。
そういえば、近所のお店で働いていたPepperくんがいつの間にか居なくなった時は寂しかったなあ。
どこかで元気にしていると良いなあ、あのPepperくん…。
〈こういう方におすすめ〉
人間側よりもロボット側に感情移入出来る作品が好きな方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間〜2時間半くらい。