著…エドワード・ブルック=ヒッチング 訳…藤井留美『地獄遊覧 地獄と天国の想像図・地図・宗教画』
「この世」に生きる人々の大きな関心ごとの一つは、「あの世」のこと。
この本では、国、時代、宗教の異なる人々が「あの世」をイメージして描いた絵画・彫刻・書物等が紹介されています。
古代エジプト、古代メソポタミア、古代インドといった古いものから、近代に至るまで。
単に美術書として眺めたとしてもそのイマジネーションの豊かさに心を揺さぶられますし、世界史の書物として読んだとしても解説文に読み応えがあります。
作品の作り手はそれぞれ「あの世」のイメージが異なるものの、誰もが「天国」「冥界」「地獄」「悪魔」といった概念を持っているという共通点が非常に不思議です。
みんな生まれた国も時代も見た目も言語も違うのに…。
もしかしたらみんな実は深層心理のようなものが繋がっているのでしょうか?
また、「あの世」をどうイメージするかによって、その作り手にとっての「この世」がどうだったのか垣間見ることが出来る気もして興味深いです。
きっと「あの世」には「この世」が大きく反映されているのでしょうから。
なお、わたしは特に、
●ヨース・ファン・クラースベークの『聖アントニウスの誘惑』(1650年頃)
●ヤーコプ・ファン・スワーネンブルフの『カロンの舟と黄泉の国をアエネイスに見せる巫女』(1620年頃)
●ヒエロニムス・ボスの弟子による『辺獄のキリスト』(1575年頃)
といった作品の不穏さにゾクゾクしました。
まるで寝つきも寝覚めも悪い日に見る、長くてジメジメした悪夢のよう!
もしかしたら、わたしたちはこうした作品のように、実は知らず知らずのうちに、自分の頭の中に何者かが侵入していたり、逆に自分が誰かの腹の中に潜り込んでいるのかもしれませんね。
想像しただけで寒気がしますが…。
普段は意識していなくても、「あの世」は実はすぐそばにあるのかも…。