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著…西加奈子『まにまに』

 何度でも読み返したくなるエッセイ。

 クスッと笑えるエピソードが、これまた面白い語り口で書かれています。

 けれど、単に面白いだけではありません。

 ⭐️単行本版

 ⭐️文庫本版


 やはり旅行はいい。自分が何ものでもないことが、分かるのがいい。

(著…西加奈子『まにまに』 P102から抜粋)


 という言葉に、わたしはとても共感しました。

 本当にそうですよね。

 普段は日常を生きるのに精一杯で、自分を見つめることは容易ではないけれど、旅に出ると嫌でも思い知らされます。

 自分が誰でもないことに。

 旅をすると、いつもいる世界から解放されるし、知らない土地で知らない人たちと出会えて、新たな発見も出来るから、とても楽しみなのだけれど。

 旅の最中ならではの孤独ってありますよね。

 なんでしょうね、あの感じ…。

 「異邦人」と呼ぶべきか、自分が「幽霊」になったとたとえるべきか、分かりませんが…。

 うまく言葉では言い表せない、あのぽっかりと穴の空いた感じ…。

 まさに「なにものでもない」。

 誰も自分を知らないし、知ろうとも思わない。

 それに自分も、自分が何ものなのか分からない。

 恐らく、一生をかけて自分が何なのか探し続けることになるのでしょう。

 それは寂しくもあるけれど、同時に、希望でもあります。

 今の自分は誰でもない。

 だから、これからどんな自分にだってなれる。

 そんな気がするから。

 きっと旅はそれを確かめる行為でもあるのでしょう。

 また、わたしはこの本の中で、

種はいつか育ち、その頃には元見た景色はあとかたもなくなっていることもある。でも私は植えつけた瞬間のことを忘れない。種は芽吹いた後も、私の胸の中でいつまでも光っているのだ。

(著…西加奈子『まにまに』
P159から抜粋)

 という文章にも見惚れました。

 なんて美しい希望の光…。



 〈こういう方におすすめ〉
 気楽な感じで読めるけれど、単に面白いだけではなく、人生に必要な気づきをくれるエッセイを読みたい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 1時間くらい。

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