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著…スーザン・コリンズ 訳…河井直子『ハンガー・ゲーム 1 (下)』

 過酷な状況を生き抜く少女少女を描いた小説。



 ⭐️Audible版

 ⭐️文庫本版


 ※注意
 以下の文は、結末に関するネタバレを含みます。

 


 P74に書かれているワンシーンがひどく切ないです。

 それは、一羽のマネシカケスが、ある短いメロディーを囀るシーン。

 ハンガー・ゲーム開始後にカットニスと仲間になった少女ルーが使っていたメロディーです。

 自分の無事をカットニスに知らせる時の合図として。

 マネシカケスがこのメロディーを囀るのを聴いたカットニスは、

 「元気にしているのね」

 と呟きます。

 ルーはとっくに、他の参加者の手によって殺されてしまったのに…。

 その時ルーを看取ったのは、カットニス自身なのに…。

 きっと、カットニスの「元気にしているのね」という言葉に共感する方は少なくないのではないでしょうか?

 大好きな人が亡くなったなんて何かの間違いで、本当はどこかで元気にしていると思いたいですから…。

 自分は鳥の鳴き声を聴いたのではない。

 大好きな人からの無事の知らせを聴いたのだ。

 そう、一瞬でも良いから思いたいですよね…。

 それほどまでに、カットニスにとってルーはかけがえの無い存在でしたから。

 他の参加者たちをはじめ、ピータとも殺し合わねばならないカットニスは、ルーと仲間になるまでずっと追い詰められていました。

 孤独にも、疲れにも。

 それがルーと出会ったことで一変しました。

 カットニスは故郷に残してきた妹プリムをルーに重ね合わせ、ルーを命がけで守ることに使命感を見出していたようです。

 それなのにルーが致命傷を負って命を落とすくだりは…、読んでいて本当に辛かったです。

 そしてわたしは同時に憤りました。

 「この小説の世界には高度な医療技術があるのに、なぜ運営はハンガー・ゲームの参加者が死ぬのをただ待っているだけなのだろう? 運営は参加者が死ぬとすぐに遺体を回収するけれど、死後にすぐ駆けつけられるということは、まだ息があるうちに助けることも技術的には可能であるはず。参加者がゲーム続行不可能なほど深い傷を負った場合、その時点で負けとみなして救護しても良いのでは?」

 と。

 けれど、運営は参加者が亡くなる度にその遺体を淡々と回収するのみ…。

 これについてわたしははじめ、

 「せめて、遺体の腐敗を防ぎ、故人の尊厳を守り、やがては弔うために回収しているのだろうか?」

 と思い込んでいました。

 そう思いたかったから。

 …しかし、違いました。

 考えてみれば、ハンガー・ゲームの運営がそんなまともなことをするはずがありませんよね。

 この『下』の終盤にはミュットと呼ばれる怪物が出てきて参加者を襲うのですが…、このミュットはなんと、参加者の遺体をつぎはぎして作られたものだったのです!

 運営は参加者の遺体を損壊したのです。

 死後もなお殺し合わせるために。

 …罪の無い少年少女を殺し合わせて命を奪うだけでは飽き足らず、遺体まで冒涜するとは…。

 本当にハンガー・ゲームの運営は最低ですよね。

 そもそも、『上』の時点で、このハンガー・ゲームの運営は自ら参加者を攻撃したりとやりたい放題でした。

 『下』では、運営は遺体の冒涜以外にもめちゃくちゃなことをやらかします。

 「ゲームで生き残れるのは1人だけ」というルールを、なんとゲームの途中で「同じ地区の2人が生き残った場合は2人とも勝者にする」と変更。

 その後、あろうことかゲームの最終局面になって「やっぱり変更は無効。生き残れるのは1人だけ」と発表。

 カットニスとピータがそれならばと心中を試みると「ストップ!やっぱり2人とも勝者でいいよ」とまた変更。

 こんな破綻がいつでもまかり通るということからも、参加者たちの立場がいかに弱く、運営がいかに強大な力を持っているかがよく分かります。

 そして運営にそうした強い力を与えている首都キャピトルの力は、運営よりも遥かに強大。

 結局、カットニスとピータは2人ともハンガー・ゲームの優勝者になりましたが、これでめでたしめでたしというわけではありません。

 2人はこの先も危うい立場が続くことになります。

 首都キャピトルにとって、2人は危険分子ですから。

 「最後の1人になるまで殺し合え」という運営の命令は絶対なのに、2人は自分の意思でそれに逆らって心中を試みることで、運営そしてその背後にいる首都キャピトルに抵抗したのですから。

 2人の姿に感銘を受けた人々が今後首都キャピトルに反乱を起こすかもしれない、と危険視されて今後も監視され続けるのは間違いありません。

 ゲームの中では、最悪の場合でも自分が死ぬだけで済みましたが…、ゲームの外では、自分がしくじれば家族をはじめ第12地区の人々まで粛清される可能性が高いため、2人にはこれからも苦難が続くでしょう。

 なんて酷い世界…。

 こんな世界で2人は今後どう生き残っていくのでしょう?

 近いうちに続きを読んで、それを確かめようと思います。




 〈こういう方におすすめ〉
 デスゲーム系の小説を読みたい方。

 〈読書所要時間の目安〉
 2時間くらい。

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