著…山田宗樹『百年法(下)』
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※注意
以下の文には、結末までは明かしませんが、重大なネタバレを含みます!
現実世界でも多くの人たちがガンに苦しんでいますよね。
この小説の世界でもガン患者が急増。
この世界では、「SMOC」と呼ばれる、たちの悪いガンを発症する人が増え続けていきます。
SMOCを発症した人は、あっという間に死亡します。
そんな恐ろしいSMOCを引き起こす原因が「ヒト不老化ウイルス」であることが判明し、多くの人たちがパニックに陥ります。
なぜなら、「ヒト不老化ウイルス」は不老処置「HAVI」を受けた人全員の遺伝子に組み込まれてしまっているからです。
HAVIを受けた人からヒト不老化ウイルスだけを除去することは不可能。
日本国民のほとんどがHAVIを受けているため、その全員が遅かれ早かれ必ずSMOCを発症し、死に至る見込み。
そうなると日本の人口が激減してしまいます。
人間が若い姿のまま百年も生きられるこの世界では、子どもを生み育てる必要性があまり無く、結婚も出産も高級な趣味の一つと化していたため、まだHAVIを受けていない若い世代はわずか。
そのわずかな人数で命を次世代へと繋いでいくしかありませんが、HAVIを受けていないからといって病死や事故死や災害死といった死を免れるわけではありません。
ということは、数年後、数十年後の日本の人口は…。
想像するとゾッとします。
日本が今後も国家として存続出来るかという危機的状況。
国が無くなるかもしれない、というのは恐怖です。
現実の日本も人口減に悩んでいるので、この小説の登場人物たちの苦しみが他人事とは思えず、わたしはこの小説を読んでいてあらゆる点で怖くなりました。
また、人間が若さと引き換えに、知らず知らずのうちに自分の体に時限爆弾を組み込んでしまった、という何とも皮肉な展開にも唸らされます。
「老化を止める」という人類が古代から夢見てきた技術を持つこの世界においても「病気」というものが根絶されていないことにも、わたしは非常に衝撃を受けました。
老いからは逃げられても、病や死からは決して逃れられないということなのでしょうか…?
この小説の登場人物たちがその後どのような行動をとったか、是非読んで確かめてみて欲しいです。
わたしはこの小説を読み返す度に、生きることの意味を自分に問いかけます。