J・A・バヨナ監督『怪物はささやく』
※注
以下のレビューにはネタバレを含みます!
ママが重い病気にかかっている。
どんな治療をしても、ちっとも効いてくれない。
早く元気になって欲しいのに…。
どんどん弱っていくママの姿を目の当たりにしなければならない。
何かしてあげたいのに、何もしてあげられない。
「誰かママを助けて!」と叫び出したいのを必死にこらえながら、ママを励まして、耐え続けるしかない。
けれど、子どもながらに、もう気づいている。
大好きなママに「さよなら」を言わなければならない日が近づいていることに。
これは、そんな子どもが主人公の映画。
子どもの苦しい胸の内をダークファンタジー風に描いています。
厳しい現実と想像の世界との狭間で、子どもの心は揺れ動きます。
実際にパパやママといった身近な人が闘病している子どもはこうして苦しんでいるのだろうか…? と想像しながらこの映画を観ていると、大人であるわたしも息が出来なくなるような感覚に襲われました。
子どもだけでなく、大人でも、大切な人の闘病を見守った経験のある人は同じような気持ちを味わったことがあると思います。
どんなに医学が進歩しようとも、人間の手が及ぶところは現代においてもごく限られています。
まして、医者でもなく魔法使いでもない普通の人間の一人に過ぎない自分には、大切な人が苦しんでいても何もしてあげられず、ただ傍に居ることしか出来ないのだ、と無力さを思い知らされるような気がします。
また、主人公のママ自身も「もっと一緒に居たかった」と主人公に語りかけるなど、無念さを滲ませています。
これから、今よりもっともっと医学が進歩して、この映画の主人公のような気持ちを味わう子どもや大人が減りますように…。
命ある限り、いつかはみんな必ず死んでしまうけれど、こんな悲しい別れをせずに済みますように…。
苦しんで苦しんで苦しんで病気やつれして亡くなるのではなく。
人生でやりたかったことをやれるだけやり切ったある日、気持ち良さそうに眠っているうちにちっとも苦しむことなく亡くなりました、といった最期や、お世話になった人たちに「今までありがとうございました」とお礼を伝えてから安らかな気持ちで眠るように息を引き取る、といった最期を迎えられる人が少しでも増えますように…。
わたしはこの映画を観るたび、心の底からそう願います。