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著…乾緑郎『機巧のイヴ』
この小説の舞台は江戸時代と思しき時代。
ですが、これは単なる時代小説ではありません。
SF、伝奇、隠密、闘蟋など様々なジャンルが融合した作品です。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
「からくり人形」と表現するのが相応しくないほど、あまりにも精巧に作られた人形たちが数体登場します。
髪の毛や皮膚などの見た目が人間そっくりに再現されているだけでなく、心の存在まで感じさせる「機巧人形」が…。
この小説を読んでいると、人間と人形の違いは何なのか、この小説の読み手である自分には果たして心があると言えるのか、深く考えさせられます。
この本には短編小説『機巧のイヴ』『箱の中のヘラクレス』『神代のテセウス』『制外のジェペット』『終天のプシュケー』が収録されています。
どの短編にも、ある男と、ある一体の機巧人形が登場。
男の名は久蔵。
機巧人形を作る技術を持つだけでなく、生きた人間の体と機巧人形の部品とを繋くことも出来る男。
機巧人形の名は伊武(イヴ)。
硝子のように透き通った美しい瞳を持つこの機巧人形は、まるで生きた女性のよう。
自らの意思で歩き、話し、時には腕を失った人間に新しい腕を作ってくれるよう久蔵に頼んだり、いつか本当の娘にしてくれるよう観音様にお願いすることさえあります。
お気に入りの関取のことで顔を赤らめることも。
この本のページを捲れば捲るほど、久蔵の抱える秘密、そして伊武の正体が明らかになっていきます。
その過程では、まるでこの小説を読んでいる人自身に問いかけるような一文が幾度も繰り返し登場します。
「人と、人とそっくり同じ形をした人でないものがあったとして、何が違うのか逆にお主に問いたい」
「それに、人と人の間でも、相手が何を思っているかは、本当はわからないでしょう?」
「魂とはどこからやってくるのか。そしてどこに隠れているのか」
…と。
これからこの本を読む方には、是非これらの問いについての自分なりの答えを考えながら読んでいただきたいです。
ではわたしはどうかというと、自分以外の人間を人とも思わないで簡単に殺してしまえるような人間よりも人形たちのほうがはるかに心がある、と考えています。
この小説の最後には、殺人を犯す人形も登場しますが…、この人形が流す涙が単なる水だとは、わたしには到底思えません。
これは涙。
大事な友達を失ったことで人形が流した涙。
心無き者は、涙を流すことはないでしょう。
それに…、人間だから心がある、とは限りませんよね?
〈こういう方におすすめ〉
「人間」と「人形」の違いについて興味がある方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。
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