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著…東野圭吾『麒麟の翼』

 マスコミの報道次第で、犯罪被害者が世間から同情されたり、その逆も起こる…という皮肉な現象をも描いた小説です。

 この小説では青柳武明という男性がナイフで刺殺されます。

 マスコミが被害者にも非があったように報じたため、遺族が「殺されて当然」「香典返せ」と人々から責められ、それを苦にした遺族の一人(武明の娘)が手首を切るという事態にも発展します。

 身内を殺された悲しみや苦しみを一生抱えていかなければならない遺族に、わざわざ辛く当たる人の神経が分かりませんね…。

 また、加害者である可能性があるだけでハッキリとした犯行の証拠があるわけではない人物・八島冬樹の同棲相手も、勤め先の店長から「しばらく来なくていい」「うちも客商売だからね、変な噂が流れるのは困るんだよ」と強制的に仕事を休まされて生活に困ることになります。

「殺人事件ってのは、癌細胞みたいなものだ。ひと度冒されたら、苦しみが周囲に広がっていく。犯人が捕まろうが、捜査が集結しようが、その侵蝕を止めることは難しい」
(『麒麟の翼』から引用)

 という言葉がこの小説に登場し、読んでいてひどく胸に突き刺さりました。

 犯罪は加害者本人と被害者本人だけの問題ではなく、周りの人々をも巻き込んでどんどん傷つけていきます…。

 たまにはニュースで「今日はどこにも事件は起きませんでした」とキャスターが言うのを聞いてみたいけれど、今まで一度もそんなニュースは見たことも聞いたこともないし、今もどこかで何かしらの犯罪が起きていると思うと気が滅入りますね…。

 今もどこかで誰かが誰かを傷つけて、無関係な人たちはワイドショーを見て面白がったりネットで誹謗中傷したりして、加害者には手厚いケアがあるのに被害者には大した補償も無く苦しんで…。

 

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