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著…北杜夫『私はなぜにしてカンヅメに大失敗したか』
こんにちは。
締切前の作家の気分を疑似体験してみたい方におすすめの本をご紹介します。
『デンヤ』『日米ワールドシリーズ』といった作品も収録されていますが、ダントツで面白いのは、北杜夫先生が帝国ホテルでカンヅメになった時の体験を綴った表題作。
「ムックリと不死鳥のごとく甦り、」「ゴロゴロガアと寝てしまった」「うっかりテレビなどをつけたりすると、美女などが現れる危険がある」といった独特の言葉遊びが楽しいです。
大真面目なのにテンション高め。
不思議な文体がクセになります。
わたしはうっかり電車の中でこの作品を読んでしまい、吹き出しそうになる度に下唇を噛んで我慢し続けた結果、読み終えて1日経った今でもまだ下唇が痛いです。
特に面白いのは、先生がルームサービスで氷を注文するくだり。
氷ばかり頼むのです。
雪山でも作るのか?と思うくらい。
気合いを入れよう!というやる気は十分。
しかし原稿は遅々として進まない。
完成原稿は増えないのに、氷ばかりが増えてゆく。
ルームサービスで氷ばかり持って来させられているスタッフさんについて、先生が「私のことを氷狂人と思っているに違いないその係員は、」と自虐混じりに描写するものだから、面白くってたまりません。
もはや、執筆をするためにカンヅメになっているのか、氷を注文するためにカンヅメになっているのか、分からなくなってきます。
何と言っても天下の帝国ホテルですから、お客様に対して「氷狂人」だなんてあだ名を付けるようなスタッフさんはいないと思いますが、帝国ホテルの厨房から氷が異様なスピードで消えていく様子を想像すると、とってもシュール!
もしも『氷を注文したお客様ランキング』があったら、先生は堂々の歴代ナンバーワンに輝くかも…?
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