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著…恩田陸『私の家では何も起こらない』

 沢山の気配が家の中で蠢いている。

 ひとり暮らしなのに…。

 そんな奇妙な古い屋敷を舞台にした短編小説集。


 ⭐️Kindle版

 ⭐️単行本版



 ※注意
 以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。



 この本に収録されている作品たちは繋がっています。

 だから、前のエピソードを読んだだけではぼんやりしていたことが、後のエピソードを読むことではっきりしてきます。

 輪郭も。

 陰影も。

 血の匂いも。

 最も生理的な嫌悪感を催すのは『私は風の音に耳を澄ます』という作品。

 中には、読んだだけで嘔吐してしまう方もいるかもしれません。

 が、わたしはこの作品を、こわいというよりも哀しいお話だと思いました。

 ここは凄惨な事件が起きた場所なのに、むしろ主人公にとっては、自分の家よりもずっとここの方が安全なのですから。

 主人公はこう言います、

 母はいつも、弟の泣き声を聞くと私をぶちました。いいえ、私は知っていました。母は単に私をぶちたかったからぶったのです。何かを押し殺すため、何かをあきらめるために母はいつも私をぶちました。

(著…恩田陸『私の家では何も起こらない』単行本版P34から引用)


 と…。

 わたしはこの作品の主人公と、家に居場所がなくて夜の巷を彷徨っている現実の子どもたちの姿を、つい重ねずにはいられませんでした。

 もしかしたら、「酷いことをする親の元へ帰るくらいならここでこうしている方が幸せ」とこの作品の主人公も考えたのかもしれませんね…。

 さて、わたしが最も好きな作品は『僕の可愛いお気に入り』。

 悲しいけれど、とても美しいから。

 追い詰められた少年に出来た、たったひとりの友だち。

 それは、生きている人間ではありませんでした。

 けれど、とても優しく、あたたかいのです。

 少年の身近にいた、生きている人間たちよりも…。



 〈こういう方におすすめ〉
 「幽霊よりも生きている人間の方がずっと恐ろしい」と考えている方。

 〈読書所要時間の目安〉
 3時間くらい。

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