本を売ること10ヶ月(2024年10月27日)
本を売るという本屋の一番中心にある行為について、久しく書いてないことに気が付いた。シェア型書店で棚を借りるところから、書店開業を目指して営業し始めてから10ヶ月。最初のうちは、売れる売れない、利益が出る出ないだけを考えていたし、棚の作り方や仕入れ方に自然と光が当たって、それをnoteにも書いていたと思う。どうして本を売る以外のことを書きがちになったのかを語りだすと、またそこに逸れてしまうから、今日は売ることの話を書く。
相乗効果よりも、差別化が大事
《本店・本屋の実験室》は、1列単位で棚を借りて本気で本を売る人たちが集まっている。本気という言葉は多義的だし、他のシェア型書店には別の種類の本気があるんだけど。ここで言う《本店》の本気というのは、売上を伸ばして利益を出していくという意味だ。当初、本を売っていくぞ!という前提があると、店全体で本が売れて、結果として自分の棚の本も売れると考えていた。実際、それぞれの棚が充実することで売上は伸びている。つまり、相乗効果は確かにある。でも、最近は相乗効果よりも「他の棚と違った魅力があるか」、差別化できているかどうかが棚の売上に影響していると思っている。これは前に書いた棚のコンセプトのことでもあるし、実際に並んでいる本のラインナップのことでもある。だから自分以外の棚で売れてる本を見て、フムフムそれなら同じカテゴリの本を売ろう……と考えるよりも、この店でまだ売ってない売れる本は何だ?と考える方がいい。例えばこの間、お客さんに「地図、ある?」と聞かれて、そう言えば地図は無いな!と思った。考えもしなかった、地図。これはもっというと、同じシェア型書店の他の棚ではなくて、高円寺に来る人が普段目にする本棚すべてと比較して初めて出会う印象を与える本棚を目指すべきなのかもしれないと思う。本屋の数よりも本の数のほうが絶対多いのだから、原理的には可能なはずなんだ。
コンセプトが選書を縛る
《本屋フォッグ》は「この社会の『大人になりたい人』のための本屋」をコンセプトにしている。
売る本を決めるときもそれを意識する。本を見てどれを仕入れようかと考えるとき、売りたい/売れそうな本を選んでいるけど、ちょうど仕入れようか迷うような場合に「コンセプトに合っているかどうか」を判断基準にしている。
売れそうだと思って仕入れて売れなくても、背表紙が並んでいて店の理念の一部を体現する看板の役割を果たしてくれそうなら「買い」だと思うことにしている。
目利き以外の判断基準が加わって楽になったけれども、言い方を変えればコンセプトが選書を縛っているわけだ。「書店でやっていくんだから、特に売りたい本を何としてでも売るか、売れる本を選ぶ目を養うかに集中しなさいな」という意見もあるだろう。僕の中にもある。
でも今は、コンセプトを掲げることで店を応援してくれる人を増やす工夫と、目利きのレベルアップを同時進行でやりたい。
ちなみに、誰にもそう評価されてはいないけど、古本を選ぶ目利きは少しずつ良くなっている気がする。仕入れようとする目で本を見る生活を続けて、単純に量を見たことで知った何かがある感覚。
どうやらせどりの世界には、バーコードを読みこんでネット上の相場を表示できるツールがあるようだけど、Amazonのものまね芸人になりたいわけではないから、目の前の本すべてを検索するスタイルは採らないことにする。
価値が長く続く本を売る
今の時代を強く反映した本を売ることは比較的簡単で、少し前に売れていた本の傾向から本を仕入れればいいことになる。もちろんその中でも売れる本、売れない本はある。それでも「前に気になってたけど買わなかったな」という感じで手に取ってもらえる本はある。欲しい本を全て買えるほど、みんなお金を持っていない。
それに対して、スピード感を売りにしていない良書を発掘するのは難しい。さらに言えば、良書を良書だと分かってもらえるように売るのも難しい。街の本屋の店頭で売るならなおさら。だから今話題の本以外をしっかり売り続ける街の書店は本当にすごい。並大抵の努力で行き着ける極致ではない。きっと本屋を続けることが難しいという言葉の意味は、これなんだと思う。年月を経て残る本を見極め、それを相当な打率で当て続けることが「それなりの読書家」にはできない。とんでもない量の本を読んできたか、売り手の目線で優れているか、どちらかでないと無理なのだと思う。
価値が長く残り続ける本をどう知っていくか。10ヶ月前よりはマシだけど、ほんの少ししかマシになっていない。でも続けないことにはブレイクスルーはない。
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