花との時間は面白い|いち人間としても、 事業開発に向き合う人としても。
1年ほど前から、友人と花のブランドを立ち上げています。
パリに花留学をするんだ!と言う友人があまりに眩しくて、得意な写真撮影を口実に、少しばかり花の世界に足を踏み入れてしまいました。
花と向き合う時間はとても面白い。
いち人間としても、 事業開発に向き合う人としても。
今回のnote記事では、花と向き合う面白さを2つの観点で共有します。
【1】ビジネスデザイナーとして見る、花の面白さ
花は、コンテンツ自体に、工夫の余地がない
事業開発の現場にいると、そのアイデアそのものの質に向き合うことがほとんどですよね。どんな人にとって、どんな価値を届けるのか、サービスそのものの内容や届け方、伝え方などを考えてゆきます。
しかし、"花を売る"というのは、切花の状態の商材自体には工夫の余地があまりないように思うのです。
つまり、"花を売る"というのは、そのブランディングに真っ向に向き合うことができる、とても面白い商材だと思います。ブランディングという言葉はとても曖昧はありますが、花を売る時のコンセプト(意味付け)と、その魅せ方に「集中」できる、そんな純粋さがあると思うのです。
乗り越えるべき障壁は、日本人の心、文化、価値観
さて、日本の花業界について想像したことはありますか?装花をはじめとするto B向けが8割を占めており、個人が購入する花は2割といった構成です。個人が花を日常に取り入れる場合は、月2000円程度が限度で、ブーケなどの贈り物であれば3000円から5000円程度であればお金をかけられる場合が平均値だそうです。
また、花は売れる期間がとても短いですよね。だから、個人で花屋をやろうとすると、1日あたりどれだけ売り切れるか、という点が命題になります。とはいえそれはなかなか厳しく、3割は廃棄になっているのが現状です。だからこそ、切花の販売だけでなく、花教室や装花など、多様なサービス展開で安定性を保っているのが現状です。
コロナを経て、家での時間が多くなった人も多いかと思います。個人として花をじっくりと愉しむ人が増えたのかな?と思いましたが、その時間に花業界はまだ参入できていないようにも思います。
価格を上回る感動を、まだ花業界は与えきれていないだと思う
日本人に息づいた" もったいない精神 "、自分に対する贅沢の少なさ…この価値観を大きく変えるのは、本当に難しいです。
小さなブランドとしてやっていくなら、まずは花に感じる価値の真髄部分を見つける必要があるのだと思います。例えば、花そのものの変化を愉しめるのか、花に溢れた空間を誰かに見られたり共に楽しんだりすることに価値を感じるのか、花を渡すことに価値を感じるのか…。「花に価値を感じる」という一つの切り口でもさまざまな理由があります。
花に向き合う、ということは、人が大事にしているものに向き合うのと同じことなんだと、そう思うのです。
リピート買いするのと、心が動くのは、違う
少しマーケティングの話にしましょう。マーケティングの世界では、一般顧客をロイヤルカスタマーに変えてゆく、という考え方があります。花の世界も似ているように思います。花の価値を少しでも理解している人を、変えてゆく…それが小さなブランドができる最初のステップなのだと思います。
ただし、注意したい点はあります。
事業開発やマーケティングの観点からすると、人の購買行動が変わる一因に、その人にとって、その商品の価値(新しい意味)が見つかったということはよくあることです。ただ、これを”心が動いた"と捉えてはいけないような気がします。
想像をいい意味で裏切る・感じたことないくらい十二分に良い体験を受ける・作り手の愛がダダ漏れしていて、自分にもそれが伝播してしまう…価格を上回る感動を花業界で起こすには、そんな体験を届ける必要があるんだと痛感するばかりです。
【2】いち生活者として見る、花の面白さ
花が教えてくれたこと
私たちが切り花として手にする花の一生はとても短いものです。
1日、いや数時間単位でその姿を変えるその変化は「老い」の姿そのもの。
蕾が開き、やっと生まれた花びらにはハリと艶めきが感じられる。そして2日も経つと、だんだんと水分が抜け、やがてドライに、深い色味へと変化してゆく。
あと数時間もしたら変わってしまう「今」。
その「今」はどの瞬間を切り取っても美しく、もう二度と見れない瞬間だからより一層儚く、愛おしく感じます。
そして、それは人生も同じだとつくづく思います。
花は、一瞬の儚さ、そしてその美しさを教えてくれているのです。
"Vingt_" |Quiet Luxury Brand
"Quiet Luxury"(静かなる贅沢)を感じた
お花を、10本、20本…そんな単位で買ったことがありますか?
多くの人はないと思うんです。私も、ありませんでした。
でも、パリの花屋に行くと、10輪単位で売っているのが当たり前。
私は、10本単位の花が家にある生活を通じて、Quiet luxury(静かなる贅沢)という哲学を体感したような気がしました。これは、新しいミニマリズムの考え方になるのではないか…と。
"Vingt"
これはフランス語で20を指します。もともと友人が専門にしているパリスタイルのブーケは、偶数本の花で、ブーケを組むことが多い。一般的な花束とは違い、メインの花材をたっぷりと使用するブーケは、"Quiet Luxury"(静かなる贅沢)そのものだと思ったのです。
新鮮な市場で仕入れ、丁寧な水揚げをした花であれば、1週間以上は愉しむことができます。大切な人と、素敵な場所でコースのランチを食べるくらいのお値段。その時の贅沢な自分のための幸福が1週間続くような感覚…
Quiet luxury(静かなる贅沢)、お金をかけるべきところを、自分の軸で決める。そして存分に味わう。ライフスタイル全体にも通ずる、新しいミニマリズムの形。花を通じて、そんな生き方の一案を提案できたら…。
人の、信念に響くような花を届けたい。
もっと今に意識を向けていいと思う
私たちは日々、未来のこと・過去のことに想いを馳せて、今"この瞬間"から意識が離れている瞬間が多いように思います。
私の好きな書籍「ホモ. ルーデンス(ヨハン・ホイジンガ)」は、生きることの本質は「遊ぶことにある」と説いています。
未来のための手段としての時間。
今この瞬間自体が、目的である時間。
この2つの時間を、切り離して考えてみると、人生が少し生きやすく、味わい深くなると思います。どちらかといえば、日本では後者を味わう人が少ないようにも思う。だからこそ、もっと今に意識を向けていいと思うんです。