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拒絶
インターネット上では流行っているとされているが、日常生活では一度も耳にしたことがない。そんな言葉があったりする。
例として思いつくのは、「それってあなたの感想ですよね?」だろうか。この一文、周りで使う人を見たことがないのは当然といえば当然で、非常に使い勝手の悪い言葉である。相手との会話を強制終了したいと思っていない限り、こんな挑発的な物言いはできない。コミュニケーションが破綻し、その場に気まずい空気だけが残る。
目の前にいる人間との関係をばっさばっさ斬り捨てていくことを生業とする、極めてレアな人間にしかこの文言は使えなさそうだ。
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一方、実際に口には出さないけれども、心のうちではボソッと呟かれているという場合もある。もしかすると、「それってあなたの感想ですよね?」は、このケースに該当する最適な例かもしれない。
ここで注目したいのは、実際に口に出そうが、心のうちで思おうが、そこでの思考の有り様には、多分に共通点があるということである。
「自分の「感想」への自信のなさは、他者の「感想」が自分に押し付けられることへの拒絶に向かい、そのステップを踏んで自分の「感想」の絶対化と開き直りに行き着く。心許なさに由来する弱気は根拠のない強気になる。自分が自分であるためには勝ち続けるしかない、という論理が迫り出してくる。自分の認識を批判的に検討するという作業を避け、とにかく「上から目線」で語られることを全力で拒否する。」
(野口雅弘『中立とは何か』朝日新聞出版、P241)
「それってあなたの感想ですよね?」を汎用性が高い言葉として採用するとき、当然その対象には自分自身も含まざるをえなくなる。他者から「それってあなたの感想ですよね?」と言われる可能性を、常に意識しておかなければならない。
政治学者・野口雅弘は、以上のような緊張状態を踏まえた上で、その結果自分の「感想」を絶対化する傾向が生じると指摘する。他者の「感想」をつっぱねていい価値のないものとして扱っていく過程で、自分の認識を改める機会が喪失していく。すると、自分の「感想」の綻び・欠陥に気づけなくなる。
何と歪みきった結末だろう。「それってあなたの感想ですよね?」を採用する人々は、この野口氏の指摘さえも、とるに足らない「感想」として扱うのだろうか。
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