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苦悩

 作家の有吉佐和子は、エッセイ「不要能力の退化」の中で、次のようなことを書いている。

「テレビ出演、講演会、座談会、対談、インタビュー、随筆、推薦文、つまり小説を書くということ以外の仕事は、絶対に断ってしまうつもりだった。私は未熟だし、勉強が足りないし、いい小説を書くためには少しの時間でも無駄にしては勿体ないと考えたからであった。たとえばテレビに出るのは、どうも阿呆らしいことが多すぎるのである。」
岡本和宜編『有吉佐和子ベスト・エッセイ』ちくま文庫、P47)

 この文章を読んで真っ先に思ったことは、もし有吉が今現役の作家であったとしたら、さぞ苦労することになっただろう、ということだ。彼女の「しないこと」リストに、あと最低五、六個は項目が増えることになっただろう。

 現役の作家が、作品を発表すること以外で「するのが当然」とみなされていることに、「SNSでの発信」をあげることができる。
 その作家が余程大家でない限り、「SNSでの発信」を拒むのは難しく、作品の宣伝も兼ねて、定期的な投稿が求められる。
 この作業が、数をこなすほど、本の売り上げの向上につながるような、プラスの面しか持ち合わせていないのであれば、まだ我慢のしがいがある。だが実際は、売り上げ向上どころか、投稿が問題視され騒ぎになり、逆に読者を遠のかせるリスクさえある。読者の心は移ろいやすい。
 私個人としては、作家の投稿を定期的にチェックできるというのは、シンプルにありがたい。ただ、そこでチェックできる内容を、どのくらい読む本の選択に反映させていくか、というのは悩み所だ。
 書店でのたまたまの出会いを大切にしたいと思う自分と、差別的・排外的な発言をする著者の本は避けたいと思う自分と。後者を徹底しようとすれば、SNSだけでなく、作家が出演したメディアを総ざらいしなくてはならなくなる。残念ながら、そんな時間はない。せめてSNSの投稿ぐらいはサッと目を通しておきたいとは思っているが、私自身充分に実行できているとはいえない。

 こんなことばかり書き続けていたら、背後から「これだから……」と有吉が嘆息する声が聞こえてきそうだ。




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