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心の窓

 いい目をしている。

 漫画やアニメを見ていると、この台詞に接する機会は多い。成長過程にある主人公に対して、先人がその未来を見通して、口にする言葉。
 私は子どもの頃、この台詞に強い憧れを持っていた。こう書くと、誰かに「いい目をしている」と言われたがっていたと思われるだろうが、そうではない。むしろ、誰かに「いい目をしている」と言ってみたかった。誰も違和感を抱かない、ベストなタイミングで。
 その機会は、いまだ訪れていない。

 漫画やアニメの世界だけでなく、日常の人との付き合いの中でも、「目」を参考にしている、と語る人物はいる。
 例えば、ファッションモデルの山口小夜子は、自身の著作の中で次のように述べている。

「目は心の窓、とか、目は口ほどにものを言う、とかいいますが、目から受ける第一印象は案外当たっていることが多いのではないでしょうか。印象的な目というときには目の大きさではなく、目が生きているかどうかが大切なことだと思います。内面的な充実感や精神の緊張などが目の輝きになり、ものを見るときのまなざしが魅力的になります。」
山口小夜子『この三日月の夜に』講談社、P129)

 この発言を一読したとき、さっと頭を掠めたことがある。それは、こういう発言をする人自体は、どのような目をしているのか、という点だ。
 上記にあげた山口小夜子に関しては、彼女の職種上、容易にその「目」を確かめることができる。
 彼女の「目」がどのようであったかということは、ファッションに無頓着である私が、なぜ山口小夜子の本を手に取っているのかという点から説明したい。
 書店でぶらぶらと棚を眺め歩いていたところ、たまたま表紙にうつる山口小夜子と目が合い、足が止まった。捕捉された、という表現が一番しっくりくる。それだけ、彼女の目は蠱惑的であった。
 この目に見つめられたものは、表面的に着飾って繕うことが難しくなるだろう。
 そう考えると、漫画やアニメで「いい目をしている」と口にしていた側も、というより、口にしていた側の方こそ、その台詞に見合うだけのいい目をしている、と言えるかもしれない。



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