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ゆめ

「はやく おとなに なりたいんだ
 え? どうして?
 はやく おとなに なりたいの
 こどもって たのしいじゃない
 でもね なんだか なってみたい
 じゃあこんどは わたしのユメ いうわね…
 もいちど こどもに もどってみたい
 え~? なんで~?
 もいちど こどもに もどってみたいの
 おとなで いいのに
 いちにち だけでも なれないかな
 なれっこないよ~
 ンもう いじわるゥ」
(たなかひろかず:作曲、戸田昭吾:作詞『ポケットにファンタジー』より)

 冒頭に引いたのは、テレビアニメ『ポケットモンスター』のED曲の一節。歌い手は、小林幸子と井端珠里。二人の掛け合いが印象的な楽曲である。
 この曲に初めて出会ったとき、まだ年齢一桁の子どもだった。そんな私が、楽曲から受けていた印象はといえば、期待と不安と不思議……色々な心情がごちゃまぜになったものだった。
 その最大の要因は、小林幸子が歌う「もいちど こどもに もどってみたい」の箇所である。私も井端珠里と一緒に「え~? なんで~?」と声を出したくなった。なんと言っても、この歌詞に寂しさを感じていた。「えっ、おとなって、やめたくなるときがあるの?」……この一点が、気になって仕方なく、不安だった。

「おばちゃんは大きくなったら何になるの?
 はっはっはっ おばちゃんはもう大きくなったもの 
 でもっでもっ もっと大きくなったら何になるの?
 そう…ね あたしにもまだ、何かになれるんだわ
 ミキちゃんもいっしょに考えてあげる!
 あははっ! あんたっていい子ね!」
山田英生編『老境まんが』ちくま文庫、P175)

 次に引いたのは、近藤ようこの漫画「極楽ミシン」の一場面である。一見すると、冒頭で引いた『ポケットにファンタジー』と似たようなやりとりだが、内実は異なっている。
 『ポケットにファンタジー』では、「おとな」の不可逆性、つまり一度なってしまえばこどもには戻れない、という現実が示される。一方、「極楽ミシン」には、おとなもこどもと同じように何かになることができる、何かになるという「ゆめ」を持っていい、という前向きなメッセージが込められている。

 こどもの頃に戻りたいと物思いにふける時間も、まだまだ「ゆめ」を諦めないと熱意に燃える時間も、生きることに彩りを与えてくれる大切な時間だ。私の場合はどちらも欠け気味だからこそ、強くそう思う。




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