見出し画像

ギャップ

 友人・知人の家族から、ときどき、買い物に一緒に行こう、と誘いがくる。断る理由もなく、むしろありがたい話なので、「行きます」と反応する。
 このお出かけにおける私の役割は、お子さんの見守りである。夫婦でショッピングを楽しんでいる時間、どうしても手持ち無沙汰になってしまう子どもの遊び相手になる。大切な子どもを任せるということは、ある程度信頼されている証拠なので、その信頼に応えたいと任務を引き受ける。

 知人夫婦が私のことをお子さんにどう紹介しているのか知らないが、「質問したら、何でも答えてくれるお兄ちゃん」ぐらいに思われているらしく、次から次へと質問が飛んでくる。人よりは本を読んでいる方だとは思うが、かといって物知りなわけではない。質問の九割には、「うーん、分からんね……」と答える。これだと失望されそうだが、お子さんの場合はむしろ喜んで、「〇〇って本には、こう書いてあったよ」と教えてくれるから、むしろこちらが学ばせてもらっている。

 最近の例で面白かったのは、以下のような質問だ。

「生徒に怖がられている体育の先生がいるんだけど、じつはこの先生が学校のうさぎをとても可愛がっていることがわかって……いっきに「先生かわいい」って人気者になった。これって何っていうか知ってる?」

 訊かれたとき、大体の概要は摑めた。つまり、普段は恐れられている人がいいことをすると、普段から優しい人がいいことをするよりも、評価が高くなる。この現象に名前が付いているということだろう。
 私は他の多くの質問のときと同じように、「うーん、分からんね……。それに名前が付いてるの、知らなかったよ」と答えた。
 その後の解説では、どうやらこの現象は「ゲインロス効果」と呼ばれているらしい。「ゲインは得るで、ロスは失うで……」と頑張って説明してくれた。

「少し嫌なやつでいた方が、いつもいいやつでいるより得をするってことだよね。ぼくも嫌なやつでいよー」

 そんなことも言っていて、思わず笑ってしまった。

 後日、お子さんの両親から、どの本を参考に「ゲインロス効果」の説明をしてくれていたのかを教えてもらった。その中の一節に、グッとくるものがあったので、最後に引用して稿を閉じることにしたい。

「「ゲインロス効果」を期待して、わざと第一印象が悪くなるように振る舞うのはNG。なぜなら、最初の印象が悪かった人とは、次にあえて話をしたいとは思わないからです。」
『大人も知らない? ふしぎ現象事典』マイクロマガジン社、P49)



※※サポートのお願い※※
 noteでは「クリエイターサポート機能」といって、100円・500円・自由金額の中から一つを選択して、投稿者を支援できるサービスがあります。「本ノ猪」をもし応援してくださる方がいれば、100円からでもご支援頂けると大変ありがたいです。
 ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?