
戦略
年を重ねるにつれて、楽しめるようになったものに「スーパーでの買い物」がある。
子どもの頃は、親の買い物に付いていくことさえ、毛嫌いしていた。荷物運び要員としてこき使われるのが嫌だったということもあるが、野菜コーナーにしても精肉コーナーにしても、とにかく店内に興味を持てるエリアがなかった。お菓子コーナーは嫌いではなかったが、かといって目を輝かせるほどではない。スーパーは暇を持て余す場所だった。
一人暮らしを始めると、自分の中のスーパー評価が激変する。何よりも自身の生活をより良いものにするために、店内をよく観察するようになった。関心を持たざるを得なくなった、という表現が一番しっくりくる。
*
いま目の前に置かれている商品に、どんな戦略が組み込まれているのか。何がフックとなって、私がこの商品を購入するにいたるのか。こういう観点を持つと、スーパーの見え方が、複雑で深掘りのしがいがある場所に変わる。
「面白いことに、販売価格を50円下げるのと50円引きのクーポンを配るのでは、経済学的にはどちらも50円安いということで、まったく同じことなのですが、心理学的にはその効果が大きく異なっているのです。クーポンの場合、店頭表示価格は変わらないので「このクーポンを持っているから特別に安いんだ」という「特別感」を感じさせることができ、これにより、心理的に「例外処理」が行われ、内的参照価格に影響が及ばないのです。」
(越智啓太『買い物の科学』実務教育出版、P119)
深掘りの面白さを、ある書籍の一節を通して語ってみたい。
上に引用した文章では、同じ「50円安くなった」であっても、販売価格引き下げとクーポンでは効果が異なることが指摘されている。
ここで注目したいのは「内的参照価格」だ。あまり馴染みのない用語だが、これは、ある商品に対して、消費者が認知している価格のことを指す。例えば、缶コーヒーであればだいたい100〜120円だろう、といった感じ。
販売価格の引き下げを行った場合、この「内的参照価格」に変化が生まれる。すなわち、消費者の中に存在する、だいたい〇〇円、が引き下がるわけだ。となると、仮に販売価格の引き下げが一時的なものであったとしても、消費者には下がったままの、だいたい〇〇円、が維持されているため、通常販売価格が割高にうつってしまうようになる。
こう書いていくと、いかに消費者がシビアな生き物であるかが分かる。店の側があの手この手を使って商品を売ろうとするのも、この「シビア」に対応するためなのだ。
※※サポートのお願い※※
noteでは「クリエイターサポート機能」といって、100円・500円・自由金額の中から一つを選択して、投稿者を支援できるサービスがあります。「本ノ猪」をもし応援してくださる方がいれば、100円からでもご支援頂けると大変ありがたいです。
ご協力のほど、よろしくお願いいたします。