丁寧
本棚の整理をしていると、面白い発見がある。
今はスマホのアプリに移行したが、かつては白紙に読書メモをしていた時期があり、読了したらそのメモを本に挟んで、棚に戻していた。
ということは、手書きメモの有無によって、読書時期が分かる。
数年前に書いたメモなど、当然覚えていないから、校庭に埋めたタイプカプセルを開けるような気持ちで、メモを読むことになる。
*
メモ紙の挟まった『室生犀星詩集』を、ある書店の袋から発掘した。
おそらく持ち歩き用に袋に入れて、そのままにしたのだろう。こういうことを私はしがちである。
上記の詩だけは、本を開かずとも、収録されていることを覚えていた。この本を手に取った当時、「詩」に苦手意識があったが、「少しだけ好きになれるかも」と思わせてくれた作品でもある。
次に引いた「ひげ」という詩については、何となく覚えていた。「これを元にメモることもあるまい」とメモ紙の方を覗いてみると、予想に反してメモが残されている。
「明日からひげ剃りも丁寧に! P249」
誰に向かって呼びかけているのか。まあ、自分自身に言いきかせていると考えていい。
メモをした後、私は実際にひげ剃りを丁寧にしたのだろうか。「→実践済み!」とでもメモがあれば最高なのだが、そんなに都合よくはいかない。
過去の自分に、少しだけ笑わせてもらった。「ありがとね」と呟いて、『室生犀星詩集』を本棚になおす。
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