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ブーム

 我が家の本棚には、小規模ながらYMOコーナーを設けている。
 音楽家・ミュージシャンの本は数あれど、コーナーを作れるほど本が集まっているのは、YMOくらいだ。
 多くの本が文庫化されているというのも、YMO関連本の一つの特徴である。ミュージシャン本はたいてい単行本で終わることが多く、文庫化にまではなかなかいたらない。それだけYMO には、活字界隈においても需要があるのだろう。

 自分で勝手に作っているものに不満をぶつけるのもおかしいが、我が家のYMOコーナーには明らかな欠損がある。
 それは、坂本龍一と細野晴臣の関連本と比べて、明らかに高橋幸宏のそれが少ないことだ。
「今後刊行されたら、真っ先に手に入れよう」
 そういう思いを胸の一隅におさめて、日々出版情報をチェックする。

 思いは叶うもので、河出書房新社から『犬の生活/ヒトデの休日』が刊行された。河出文庫、文庫版である。さっそく入手し、読んでいく。
 個人的ベストは、「ディスポーザブル・マインド」という文章の中で語られる「流行」についての考え方だ。次に一部引いてみたい。

「"時代にフィット"してたり、"ブーム"だったりするものって、どーもヤだ。まぁ、僕自身や僕の作る音楽が、まったくそうだったときもあったのだから、あまり大きな声では言えないのだが、軽い感じで"今これがトレンド"などとはしゃいでいる奴は、マジに頭をハリセンで思いきりひっぱたいてやりたい。
 流行なんてものは、どうせアテにならないのだから、そのときどきで適当に楽しんでりゃいいのだろうけど、アタシャ屈折してますからね、そうそうおいそれとは楽しめないわけですよ。」
高橋幸宏『犬の生活/ヒトデの休日』河出文庫、P77〜78)

 YMOというアーティストの存在を、ある時代を象徴する一現象として知った、後追い世代の人間からすると、この発言は大変新鮮にうつる。
 「台風の目」ではないが、周囲で熱狂する人々の姿を、当人たちは割と冷めた目で眺めていた、というところだろうか。

 個人的な話をすれば、最近は高橋幸宏のごとく「ブーム」「トレンド」に反発するどころか、そもそもその反発すべき対象が何であるのか自体、摑めなくなってきている。
 「これ流行ってるらしいね」と友人に話すと、「えっ? それ流行ってから、もう一年は経ってるでしょ」と言われてしまう始末だ。

 ……自分のペースで生きていきたいと思う。



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