在野研究一歩前(44)「読書論の系譜(第二十六回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑦」
今回も前回に引き続き、内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』内で紹介されている、「偉人」の「読書」論を見ていきたいと思う。
●バルトリン
「書なかりせば神は點し、正義は眠り、自然科學は進歩を止め、哲學は跛に、文學は聾い、而して萬物は闇黑の中に埋沒せらるべし」(P33)
⇒バルトリンに該当する人物は「複数」考えられる。例えば、コペンハーゲン大学医学教授で、ルネサンス期に広く読まれた『人体解剖書』 の著者として知られる、C.B.バルトリン。また、その息子で、日本の『解体新書』に影響を与えたトーマス・バルトリンなどがいる。
バルトリンは語る。
書籍がなければ、神は沈黙し、正義は眠り、自然科学は進歩を止め、哲学や文学は十分に力を果たせない。すべての事物が闇黒の中に埋没していくことになる。
●ウィリヤム・テムプル
「書籍は俚諺の如く其主なる價値を其經過し來りし時代の極印と尊敬とより受く」(P33)
⇒ウィリヤム・テムプルは、ロンドン出身の政治家で、イギリス・オランダ・スウェーデンの プロテスタント三国同盟締結の立役者として知られている。テムプルが有する思想は、ドイツの社会学者・ゾンバルトにより「近代社会学のはじまりを見出せる」との評価を受けている。
テムプルは述べる。
書籍が有する主な価値は、その書籍がもつ歴史性と評価によって決まるものである。
●アイザック・バロー
「アリスト―トルが筆を以て世界を教化せしは、アレキサンドルが劍を以て之を壓服せし丈け有名なる事實に非ずや? 前者は後者よりも多く人の談話に止るに非ずや? 世は此軍人の武勇よりも、此哲人の學問に負ふ所多きに非ずや?」(P35)
⇒アイザック・バローはイギリスの聖職者、数学者で、ギリシャ語・幾何学・神学など多分野に通じていた。ケンブリッジ大学の初代のルーカス教授職を務め、アイザック・ニュートンを指導したことで知られる。
アイザック・バローは語る。
アレキサンドルが剣をもって世界を支配したことよりも、アリストテレスが筆をもって世界を教化したことの方が、事実として有名である。また、人びとの談話の話題としても、取り上げられる。そう考えると、私たちの社会が成り立つ上では、一軍人よりも、哲人の方に負う所が大きいのではないだろうか。
―「読書」「書籍」について、直接語った内容のものではないが、「剣」(直接的な暴力)よりも「筆」の方に価値を見出している文章であることから、『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』内で取り上げるに至ったと考えられる。
以上で「在野研究一歩前(44)「読書論の系譜(第二十六回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑦」」を終ります。お読み頂きありがとうございました。