【不只是圖書館】工場内の浴場を再整備した私設図書館|『増補版 台北・歴史建築探訪』より(11)
専売局松山工場は市内最大規模を誇る産業施設だっただけに、工員の生活を支える様々な施設があった。浴場もその1つである。ここは元女性用浴場であり、詳細は不明なものの、築80年を超える建物であることは確かだ。工場としての機能が移転した後は、長らく倉庫となっていて、全体が荒れるに任された状態だった。
ここを整備したのは気鋭のデザイナー・邱柏文氏だった。邱氏が率いる「柏成設計」がデザインを担い、修復が進められた。その際、設計概念となったのは「本があふれるお風呂。そして、そこ浸かれる文化空間」というものだった。建物が持つ趣や歴史性ばかりでなく、浴場という機能をも意識し、全体をまとめたという。
その奥にある浴場には半円形の浴槽が健在で、桶などのアイテムもさりげなく置かれている。タイルや木製の窓枠は往時のものが残されており、窓に向かって席が設けられている。庭にはハーブやシダ植物など、台湾原生種を中心に約100種が植えられており、それらを愛でながら、読書が楽しめる。
ここは台湾では珍しく、有料の私設図書館となっている。そのため、ワーキングスペースとして利用する常連が多く、浴場跡に配された机も広めになっている。デザインや芸術、建築に関する雑誌はもちろん、書籍も約1万冊が揃っているため、幅広い層が訪れている。元浴場をリノベーションした斬新な歴史再生空間。講座やトークイベントも開催されており、台湾のデザインシーンを牽引する場としても機能している。
「泡書區」は本のお風呂に浸かるというコンセプト。浴場の雰囲気を残しつつ、新しい文芸空間が創出されている。
文・写真=片倉佳史
──今回発刊された増補版では、コロナ禍でリノベーションしたレストランやカフェなど、実際に訪れたくなる約40件を新たに追加して計211件が掲載されています。美しい建築写真をご覧になり、日本人と台湾人がともに暮らした半世紀を振り返れば、きっとまた台湾を旅したくなるはずです。ぜひお楽しみください。
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