【いけばなの日】実は古くから伝わる定番の組み合わせ・松とバラ|花の道しるべ from 京都
バラづくしのいけばな展
6月6日は「いけばなの日」だ。「6歳の6月6日に稽古事を始めると上達する」と伝えられ、芸道上達の吉日とされることから、この日を「いけばなの日」として提唱している。
近年では、関西のいけばな協会が連携していけばなの日の普及啓蒙を行っている。京都いけばな協会では、2013年より、展覧会・アーティストトーク・ワークショップ等、様々な形でいけばなの魅力を発信するその魅力を発信する「京都いけばなプレゼンテーション」を開催。今年は、6月4日から6日まで、京都芸術センターでいけばな展「華やいだくらし〜薔薇を楽しむ〜」が予定されている。全ての作品にバラを使った、バラづくしのいけばな展。どのような作品が並ぶのか、今から楽しみにしている。
いけばなでバラを用いるというと、意外だとおっしゃる方も多い。例えば、正月に松と洋バラを合わせいけると「和と洋の組み合わせが斬新だ」という感想をいただくが、この組み合わせ、中国風の花言葉、謎語画題の「不老長春」にちなみ、古くからめでたい定番の取り合わせとされてきた。「不老」は松の異名で、「長春」は江戸時代以前から日本で栽培されていた中国原産のコウシンバラを指す。コウシンバラは、明治以降に日本で普及した大輪の洋バラと比べ、花はやや小ぶり。その後、この異名「長春」が洋バラにも適用されるようになった。ちなみに、バラの品種には、つる性のノイバラのように日本原産とされるものもある。
普段、花店に並んでいるバラは、ほとんどが真っ直ぐだと思う。曲がったバラは、輸送用のダンボール箱に詰める際、隙間が出来てしまって非効率的なので、敬遠される。しかし、華道家が魅力を感じるのは、やんちゃなバラ。バラ園にお願いして、屈曲した「つるバラ」を提供していただく。ひねくれた枝ぶりは、自然ならではの造形美。二つとして同じものはなく、どれも味があっておもしろい曲線ばかり。人間だって、真面目一本やりもいいけど、少々やんちゃ坊主くらいが面白くて愛らしい。
亡き祖父が京都いけばな協会の会長を務めていた頃には、いけばなの日を啓蒙するため、京都銀行さんにご協力いただき、京都銀行の各支店と四条通の商店街に諸流派がいけばなを展示。さらに、「いけばなの日」と書かれたタスキをかけ、杜若園芸さんにご提供いただいた2万本ものハナショウブを、街頭で道行く人にプレゼントした。そのご縁で、京都銀行本店の正月飾花を担当するようになり、当時、業務渉外部の次長であった髙﨑秀夫相談役には流派の名誉目代をつとめていただくなど、京都銀行との長いお付き合いの端緒ともなった。
様々な魅力持つ紫陽花 趣きある見せ方とは
例年、いけばなの日は梅雨時にあたるため、「京都いけばなプレゼンテーション」には、紫陽花もよく使われる。今回も、バラに紫陽花を合わせいける作品もあるのではないかと、期待している。ただ、この紫陽花、水あげが難しい。紫陽花の茎は、土に近い根もとは薄茶色で木の性質を持っているが、花のつけねはまだ若く黄緑色で柔らかい。黄緑色の部分で切っていけると、すぐに弱ってしまうので、必ず薄茶色の部分を残して切り、花器にたっぷりの水を注いでおく配慮が必要だ。
以前、BS朝日「京都ぶらり歴史探訪」のロケで、檀れいさんと共に、三室戸寺を訪ねた。ちょうどご住職は、蓮の植え替えをなさっていた。紫陽花も少しずつ増やしておられるようだ。ご自身でも花のお世話をなさっている姿に頭が下がる。三室戸寺は、ハート型の紫陽花の発祥の地とも言われ、例年多くの方が拝観に訪れる。
紫陽花の魅力は様々だ。青や紫、ピンクと様々な色合いの紫陽花を合わせいけるのもよい。原種に近い「山紫陽花」をほんの一枝、一輪挿しにいけるのも、また趣がある。
子供の頃、なぜか紫陽花が好きだった。雨音を聴きながら、縁側に座って庭の紫陽花をぼーっと眺めていると、花色のグラデーションに思わず引き込まれそうな、不思議な感覚になった。一つ一つの花は小さいけれど、それらが集まると大輪の見事な花になる。人間も一人一人の力は小さいけれど、皆が力を合わせればきっと困難も克服できる。紫陽花から、そんな声が聞こえてくるようだった。
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