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不忍池でハスと風鈴の音を愉しむ(上野恩賜公園)

上野恩賜公園にある不忍池のハスが見頃を迎えています。蓮見デッキでは8月12日まで、2,000個の風鈴が涼しげな音を奏で、夏の風情を盛り立てます。

ここでは不忍池の歴史を振り返りながら、美しく咲き誇るハスの姿をお届けします。

江戸時代から人気だった不忍池のハス

不忍池のハスがいつから植えられているかは、はっきりわからないそうです。ただ、1677年に出版された『江戸雀』という本には、不忍池のハスを詠んだ和歌が所収されています。

涼しやと池の蓮を見かへりて
誰かは跡をしのばずの池

また歌川広重や国貞の錦絵にも、江戸の名所として不忍池のハスが描かれています。

歌川広重『東都名所』不忍之池
歌川国貞『江戸自慢三十六興 不忍池蓮花』

琵琶湖に見立てられた不忍池

はるか昔、不忍池の一帯は入江でした。それが時間の経過とともに砂土が堆積して沼となり、やがて池として残ったそうです。

1625年に、家康・秀忠・家光と3代にわたり帰依した天台宗の僧・天海が、江戸城から見て鬼門にあたる北東に寛永寺を開山しました。これは平安京の鬼門に比叡山延暦寺があることに倣ったものです。

さらに不忍池を琵琶湖に見立て、もともと池の中にあった小さな島を竹生島に重ねて大きく造成。弁財天が祀られている竹生島の宝厳寺に見立てたお堂も建立されました。

辯天堂と不忍池のハス

ハスの花の神秘性

ハスは開花するときに、ポンという音が鳴るという言い伝えが古来から日本各地でありました。石川啄木もハスの開花の音に触れた詩を残しています。

しづけき朝に音立てて
白き蓮の花さきぬ
胸に悟りを開くごと
ゆかしき香り袖にみち
花となりてや 匂うらん

ハスの研究者である大賀一郎博士は1936年、尊敬する牧野富太郎博士の立ち合いのもと、ハスの開花音をマイクで拾う実験を行いました。しかし、開花の音は聴こえなかったと言います。

植物学者の稲垣栄洋氏は、ハスと仏教の関係を解き明かした著書のなかで、植物学の視点から見た構造的なハスの神秘性にも触れています。

不忍池は敗戦直後の食糧難の時代には田圃となり、その後も埋め立ての計画が持ち上がることもあったそうです。しかし地元有志などの尽力により、今日までその姿を残しています。

江戸時代から変わらず愛されてきた不忍池のハス。この夏、涼しげな風鈴の音に耳を傾けながら、一面に咲く神秘的なハスの姿を愉しんでみてはいかがでしょうか。

文・写真=飯尾佳央
撮影日=2024年7月18日

参考文献
『大賀一郎 ハスと共に六十年』(日本図書センター)
『不忍池ものがたり』鈴木健一 著(岩波書店)
『なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか』稲垣栄洋 著(幻冬舎新書)
『しのばずの池事典』谷根千工房 編

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