綾瀬はるかさんの新たな一面を引き出した映画『ルート29』、姫路と鳥取を結ぶ国道29号線の旅
『こちらあみ子』(2022年)で第27回新藤兼人賞金賞をはじめとする数々の賞を受賞した森井勇佑監督とあみ子役を演じた大沢一菜さんが再タッグを組み、“あみ子”の映画がとても好きだったという綾瀬はるかさんを主演に迎えた本作品。今月1日には、東京国際映画祭のワールドプレミア*の舞台挨拶で3人が登壇しました。意外にも、東京国際映画祭のレッドカーペットを歩いたのは初めてという綾瀬さん。「マスコミの方との距離が近くて、緊張しました」と話します。
本作は、国道29号線を舞台にしたロードムービー。鳥取県若桜倉町出身の中尾太一さんの詩集『ルート29、解放』(2022年、書肆子午線)にインスピレーションを受け、森井監督が脚本を手がけました。
鳥取県で清掃員として働き、人と接することが苦手なのり子(綾瀬はるか)は、仕事で訪れた病院で“久しぶりにちゃんと話した”人である入院患者の理映子(市川実日子)に「姫路にいる娘を連れてきて」と頼まれます。姫路に向かったのり子は写真を元に娘のハル(大沢一菜)を見つけ出し、鳥取までの道のりを2人で旅します。
ハルは、森の中で秘密基地を作って遊ぶような風変りな女の子。のり子と旅する中で、道で出会ったおじいさんと行動を共にしたり、現世を離れ、森で暮らす人たちとご飯を食べたり。様々な不思議な出来事に遭遇します。
湖のシーンなど、リアリティがありつつも、どこかあの世を彷彿とさせる映像がありましたが、特に印象的だったのは、商店街でのシーン。走るのり子を中心に、商店街をこんなに幻想的に撮れるものなのだろうかと思いました。
本作で撮影を担当したのは、飯岡幸子さん。亡くなった人が現れるシーンを映した以前の作品『春原さんのうた』(2022年、杉田協士監督)に森井監督が惹かれ、依頼することになったといいます。本作も、リアリティがありながら、浮遊感が漂うような独特な世界が広がります。
旅路の中で、ハルはどんな状況に遭っても、常識に捉われずに受け止め、乗り越えていきます。行き当りばったりの旅のようで、何かに導かれるように歩みを進めるハルの姿に、のり子にも変化の兆しが見られます──。
ずっとひとりぼっちで、それを気にしていなかったというのり子。無表情でありながら、ハルとの旅を通して少しずつ、何か心の動きがあったことが伝わる微妙な表情に魅了されます。
舞台挨拶では、「一菜ちゃんのまっすぐな瞳に引き込まれました」と言う綾瀬さんですが、ご自身の表情の変化もとても印象的でした。のり子役の姿と舞台挨拶での輝く笑顔とのギャップには戸惑うほどで、本作では綾瀬さんの新たな境地がご覧になれるのではと思います。
「二人とも唯一無二の人。どこにも属していない感じがして、どこか共通点があると思います」とは森井監督。二人の共通点を探しに、ぜひ映画館に訪れてみてください。
文・写真=西田信子
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