【出雲の鍛冶しごと】「たたら」の伝統を今に伝える(島根県安来市)
粘土で築いた炉に、砂鉄と木炭を交互にくべ、鞴で風を送り、高温で燃焼させる。炉の中で砂鉄は分解・還元され、鉄が生まれる。日本古来の「たたら製鉄」だ。
良質な砂鉄に恵まれた出雲地方では、1000年以上前から鉄づくりが行われてきた。その長い歴史は、たたら関連の貴重な資料や器具を展示する安来市の「和鋼博物館」で体感することができる。
産業としてのたたら製鉄は近代製鉄法に取って換わられ、100年ほど前に姿を消したが、今でも出雲伝統の鉄加工を継承する職人たちがいる。今回紹介する「鍛冶工房弘光」もそのひとつだ。
作業場兼店舗があるのは、たたらの女神「金屋子神」を祀る金屋子神社にほど近い安来市広瀬町。
「たたらの操業を始めたのは天保年間。最初は製鉄と鍛冶の両方を生業としていたんです」
そう語るのは弘光11代目の小藤宗相さんだ。
「『弘光』の銘を拝する刀剣づくりがルーツですから、鍛冶業でもその軸はぶれないようにしてきました。手がけるものは美しくなければいけないし、品がなければいけないと教えられてきたんです」
機械によるプレス成型が主流となるなか、木炭の炉で素材を熱し、槌を振るってかたちを打ち出していく伝統の技〝鍛造〟を今も守り続けている。ルーツである刀鍛冶へのリスペクトだ。
メインとなる商品は、職人の手で一点一点つくり上げる灯り器具だが、近年新たな商品がラインナップに加わった。鍛造の技から生み出されたフライパン「鍛月」だ。表面に残る槌跡が、夜空に浮かぶ月のクレーターを思わせる。
「本体と持ち手の接合には溶接ではなく、鉄の鋲をつぶして留める伝統的な〝かしめ留め〟を使っています。ひとつひとつ表情がありますから、それを楽しみながら、育ててもらいたいんです」
用と美を併せ持つ逸品からは、作り手の熱い思いが伝わってくる。
文=秋月 康 写真=中庭愉生
出典:ひととき2023年10月号
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