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【出雲の鍛冶しごと】「たたら」の伝統を今に伝える(島根県安来市)

日本全国の“地域の宝”を発掘する連載コーナー「地元にエール これ、いいね!」。地元の人々に長年愛されている食や、伝統的な技術を駆使して作られる美しい工芸品、現地に行かないと体験できないお祭など、心から「これ、いいね!」と思える魅力的なモノやコトを、それぞれの物語と共にご紹介します。(ひととき2023年10月号より)

 粘土で築いた炉に、砂鉄と木炭を交互にくべ、ふいごで風を送り、高温で燃焼させる。炉の中で砂鉄は分解・還元され、鉄が生まれる。日本古来の「たたら製鉄」だ。

 良質な砂鉄に恵まれた出雲地方では、1000年以上前から鉄づくりが行われてきた。その長い歴史は、たたら関連の貴重な資料や器具を展示するやす市の「こう博物館」で体感することができる。

たたら製鉄の資料や用具が展示された「和鋼博物館」
日本刀の制作に欠かせない玉鋼

 産業としてのたたら製鉄は近代製鉄法に取って換わられ、100年ほど前に姿を消したが、今でも出雲伝統の鉄加工を継承する職人たちがいる。今回紹介する「鍛冶工房弘光ひろみつ」もそのひとつだ。

 作業場兼店舗があるのは、たたらの女神「かなかみ」を祀る金屋子神社にほど近い安来市広瀬町。

「たたらの操業を始めたのは天保年間。最初は製鉄と鍛冶の両方を生業なりわいとしていたんです」

 そう語るのは弘光11代目の小藤宗相さんだ。

「『弘光』の銘を拝する刀剣づくりがルーツですから、鍛冶業でもその軸はぶれないようにしてきました。手がけるものは美しくなければいけないし、品がなければいけないと教えられてきたんです」

 機械によるプレス成型が主流となるなか、木炭の炉で素材を熱し、槌を振るってかたちを打ち出していく伝統の技〝鍛造たんぞう〟を今も守り続けている。ルーツである刀鍛冶へのリスペクトだ。

[上]炭火が赤々と燃える仕事場に槌の音が響く [下]10代目・小藤洋也さんを中央に、小藤宗相さん(左)と三宅大樹さん

 メインとなる商品は、職人の手で一点一点つくり上げるあかり器具だが、近年新たな商品がラインナップに加わった。鍛造の技から生み出されたフライパン「鍛月たんげつ」だ。表面に残る槌跡が、夜空に浮かぶ月のクレーターを思わせる。

鍛冶工房 弘光の鉄製フライパン「鍛月」。繰り返し打ち鍛えたつちの跡が素材の美しさを際立たせる
鉄のフライパンは熱伝導率がよく、食材の味を最大限に引き出す

「本体と持ち手の接合には溶接ではなく、鉄のびょうをつぶして留める伝統的な〝かしめ留め〟を使っています。ひとつひとつ表情がありますから、それを楽しみながら、育ててもらいたいんです」

 用と美を併せ持つ逸品からは、作り手の熱い思いが伝わってくる。

熟練の技でつくられた燭台は、海外からもオーダーが入る。1000年以上もの歴史を誇る出雲の鉄文化は今もなお生き続ける

文=秋月 康 写真=中庭愉生

ご当地INFORMATION
●安来市のプロフィール

江戸時代から明治時代にかけて、周辺の山間部でつくられた鉄を北前船で北陸や関西へと運ぶ、鉄の積出港として繁栄した。港のそばには鉄問屋が立ち並び、その賑わいは民謡「安来節」にも唄われている。その後、たたら製鉄の伝統技術を生かし、高品質の鉄鋼を生産する町へと発展した
●問い合わせ先
鍛冶工房 弘光
☎0854-36-0026
https://kaji-hiromitsu.com/
和鋼博物館
☎0854-23-2500
http://www.wakou-museum.gr.jp/

出典:ひととき2023年10月号

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