岡山のデミカツ丼(岡山県岡山市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記
豚カツが大好きです。むかし、酔っぱらって出来合いの豚カツを買って帰って、かじりながら寝落ちしたことがあるくらい好きです。その豚カツに、これまた大好きなデミグラスソースがかかってるなんて夢のような食べ物だ! と、ある本で「岡山のデミカツ丼」を知った24歳の僕は思ったわけです。いつか食べてみたいなぁ、と。その願いがかなったのは20数年後。岡山で独演会の仕事をいただいて、自由時間に真っ先に向かったのが、デミカツ丼の元祖の店「野村」でした。
揚げたてサクサクのカツの上にとろりとしたデミソースがたっぷり。甘めだけど旨みが凝縮していて、不思議とごはんに合う。カツが厚すぎないのもむしろいいのよ。でもって、カツの下にキャベツが敷いてあるんだけど、湯通しした色紙切りのキャベツってのが絶妙なんだ。女将の野村好子さんが「生よりゆでた方が甘みが増して一体感が出るんです」と教えてくれましたが、納得です。それと忘れちゃならないのが彩りのグリーンピース。カツ丼と焼売には載っててほしいのよ、この豆が。って、実はそんなに好きなわけでもないんだけど。
初代が考案したデミカツ丼。昭和6年の創業当初からあったというから随分ハイカラです。デミソースのレシピは一子相伝で、女将さんも知らない。3代目のご主人は病に倒れ50代で亡くなりましたが、生前、闘病しながらも当時高校生だったご子息になんとかレシピを伝授し終えたそうです。で、いま野村の味を守る4代目の大希さんが始めたうれしいメニューがあります。それが、デミカツ丼と卵とじのカツ丼、一度にふたつの味を楽しめるハーフサイズのセット! ラーメンに半チャーハンってのはよくあるけど、どちらもハーフってところが気が利いてますでしょ。両方で並盛の量というのもちょうどよくって、しかも卵とじの方も旨いんだよ!
ご商売が長く続いていて本当によかった。野村のデミカツ丼を知ったのは、昭和62年に文藝春秋から出た『ベストオブ丼』という各地の丼物を原寸大写真で紹介する大型本だったんだけど、なんと今回の取材で、その本が女将さんご夫婦の結婚式の引き出物だったことがわかりました。「最初にメディアに出た本だから、野村家の記念品なんです」とにっこり。それがなんだか、とてもうれしかったのであります。(談)
談=柳家喬太郎 絵=大崎𠮷之
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