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映画『とりつくしま』~故人の願いを映し出し、残された人に光をそそぐ

歌人・東直子さんによる、累計14万部を超えるロングセラー短編連載小説を映画化した作品『とりつくしま』が新宿武蔵野館を皮切りに、各地で上映されています。新たな発想で死を捉えることで反響の大きかった小説を原作者の娘である東かほりさんが映画化しました。映画『カメラを止めるな!』を生んだ「ENBUゼミナール」の第11弾。

死んでしまった後に誰かのモノになれるとしたら、あなたは何になりますか──。すでに亡くなった人に、「とりつくしま係」がこの世への未練について、そして“とりつきたい”モノについて問いかけます。妻は夫のマグカップ、男の子は公園の青いジャングルジム……。考えた末に希望のモノを見つけ、それぞれの魂がモノに宿ります。

第一話 トリケラトプス(上下写真) ©ENBUゼミナール
妻がとりついた、夫のマグカップ ©ENBUゼミナール
第二話 あおいの ©ENBUゼミナール

本作は、累計14万部を超えるロングセラーとなった短編連載小説『とりつくしま』(東直子著、筑摩書房、2007年)が原作。著者の娘である東かほりさんが原作11篇の中から4篇「トリケラトプス」「あおいの」「レンズ」「ロージン」を映画化しています。

映画『カメラを止めるな!』(上田慎一郎監督・2018年)をはじめとする数々の作品を生み出した、映画と演劇の学校「ENBUゼミナール」によるシネマ・プロジェクト*の第11弾。デビュー作『ほとぼりメルトサウンズ』が国内外の映画祭で選出された東かほり監督のもと、俳優たちによるワークショップを経て撮影が進められました。

*世に出たい俳優たちを募集し、キャストを選出。ワークショップでの活動を経て映画に出演する。『とりつくしま』は応募総数399名のうち71名が選出された

全4篇のお話は、亡くなった人が主人公。不可解な設定に最初は戸惑いをみせていた主人公たちも、小泉今日子扮する“とりつくしま係”に促されるかのように、自分がとりつくモノを選択します。

「とりつくしま係」を演じる小泉今日子さん ©ENBUゼミナール
©ENBUゼミナール

リアリティある生活が描かれながらも、どこか夢のような明るい光景の中、主人公たちは、死者であるがゆえにしがらみもなく、飄々とした雰囲気で、コミカルですらあります。

誰かと死別した時、残された人はなぜあの時会いにいかなかったのか、他になにかできることはなかったのか。嵐の中にいるような、後悔の念に押しつぶされそうな時もあるでしょう。

けれども、この作品に登場する死者たちは、残してきた人が嘆き悲しむことを求めてはいません。ただ、大切な人のそばにいたいと、見守り続けます。

最後の第4話「ロージン」では、中学校の野球部でピッチャーを務める息子を残して死んだ母親が、投球時に使うロージンにとりつき、試合を見守ります。

第4話「ロージン」 ©ENBUゼミナール
母がとりついた、息子が試合で使った“ロージン” ©ENBUゼミナール

故人が本当に願っているのは、この世に残してきた、大切な人の幸せ。故人を思っていつまでも嘆き悲しむことではなく、自分がいなくても新たな一歩を踏み出すこと。

誰かの死を悼んでいる時、亡くなった人の視点で物事を考えることを忘れがちであるように思います。この映画を観れば、亡くなった人が今生きていたら何を思うだろうかということを考え、乾いた心が潤うように、救われる気持ちになるかもしれません。

主題歌はインナージャーニーによる「陽だまりの夢」。

文=西田信子

▼映画『とりつくしま』公式HP
https://toritsukushima.com/

▼上映館詳細は下記公式サイトより
https://toritsukushima.com/theater.html

▼『とりつくしま』予告編




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