七つの浦を巡って出会う、もうひとつの宮島|歴史が生んだ佳景(後編)
7つの浦の神社を巡る
厳島には、ほかにもたくさんの神々がお鎮まりになる。島の周囲約30キロ、その浦々にも神々が祀られる。船で島を一周しながら、そのうちの7つの浦を拝する嚴島神社の神事が「御島廻り」だ。
「七浦巡り」とも呼ばれるこの神事のいわれが、嚴島神社御鎮座の伝説である。
紅い帆を揚げた船に乗ってやって来た女神は、厳島で鎮座する場所を探していた。地元の有力者と一緒に船に乗っていると、島内からカラスが現れる。神の使いであるこの「神鴉」が一行を導き、ある場所で姿を消した。女神はそこに社を建てることに決め、つくられたのが嚴島神社なのだという。御島廻りはこの出来事を再現したものとされている。
7つの浦は美しい白浜ばかりではない。波が強く打ちつける岩の上に立つ社もあり、海上から参拝するしかない。そんなところにも、いやそんな場所だからこそ、ひとびとは神を見たのだろう。
潮風薫る七浦で出会う、もうひとつの宮島
御島廻りではないが、平清盛一行も船で島を回り、浦々を拝したという記録がある。江戸時代にはすでに、御師の案内で七浦を巡る定番ツアーができていたそうだ。もちろん現代の私たちも観光船に乗り込めば、この神事をしのぶことができる。どうやらひとびとは厳島に来ると、神を感じずにはいられないらしい。
それは、幕末から明治にかけて訪れた外国人にとっても同じだったようだ。大森貝塚の発見で知られる動物学者エドワード・S・モースが、厳島に到着したのは真夜中だった。山あいの宿で朝を迎え、
〈障子をあけた我々は、気持のよい驚きを感じた。目の前が、涼しくそして爽快な、美しくも野性味を帯びた谷なのである。鹿が自然の森林から出て来て、優しい目つきで我々を見た〉(エドワード・S・モース『日本その日その日』)。
アメリカ人のモースにとって、「一度も不親切に扱われたことのない、野生のシカ」がすぐ手の届くところにいる、ということも驚きのひとつであったという。
自然のままのシカや谷。門前町がどんなに賑やかになっても、ひとびとはこの美しくやさしく、厳しい自然にありのままに相対し、踏みにじることはしなかった。山と海を仰ぎ、ともに時間を過ごしてきた。
そして永遠とも思える時間が流れてなお、島はほぼその姿を変えていない。遠い祖先が見た同じ神々を、私たちはいまも島の自然のなかに見る。
文=瀬戸内みなみ 写真=阿部吉泰
──この続きは、本誌でお読みになれます。宮島で自然崇拝が生まれた背景には、その地形が関係しているといわれています。信仰の歴史は宮島に貴重な植生をもたらし、弥山原始林は嚴島神社とともに世界遺産に登録されました。本誌では、自然に詳しい専門家とともに宮島をめぐり、この島の美しさに迫ります。宮島の美しい写真と共に、ぜひお楽しみください!
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