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他人と比べないための贅沢の経験

「人ってなんで、マウントを取りたがるんでしょうね。」飲み会の席で、後輩がため息をついた。インスタには毎日のように、友人たちの華やかな投稿が溢れているらしい。彼氏からブランドのプレゼントをもらった姿や、アフタヌーンティーを楽しむ姿。そんな写真が次々と流れ、自分の生活と無意識に比べてしまうと言っていた。

彼女は最近、都会から地方に引っ越したばかりだった。環境のギャップに苦しんでいる様子が、会話の端々から伝わってきた。私もかつて似たような感情を抱いたことを思い出す。妊娠がわかったとき、私の生活は一変した。それまで毎週のように飲み歩いていた自由な時間が、つわりをきっかけに消えた。しかも、結婚もしていなかった。友人たちは変わらず楽しそうにSNSに投稿し、そんな姿を見るのが辛かった時期もあった。

今振り返ると、あの時に必要だったのは「見なくていい」という判断だった。そして、長い目で見れば、また分かり合える時が来る。今は一緒に飲みに行けなくても、いつかまた旅行にも行ける。...でもその渦中にいるときは、これがいつまで続くんだろう?と気が遠くなるものだ。

その日は結局、後輩をうまく慰めることができなかった。家に帰ってから、彼女の言葉を思い返した。もし私が彼女の立場だったら、どうするだろう。裏側にある羨望や劣等感を少しでも解消するために、一度自分に贅沢をさせてあげるかもしれない。

高級ホテルやブランドバッグの価値は、年齢とともに変わるものじゃないかと思っている。若い頃に奮発して泊まったホテルや、憧れて手に入れたバッグは、ずっと特別な思い出として心に刻まれる。自分を奮起させてくれるものにもなり得る。まだ結婚もしていない後輩なら、どんなふうにお金を使うかは完全に自由だ。ハイクラスのホテルに泊まったり、他の誰も持っていないようなバッグを手に入れたり、そういう贅沢を一度自分に許したら、他人がアフタヌーンティーに行っていたって気にならないものだ。

生涯の、日割りで考えたら早く買ったほうがいい。--小嶋陽菜


時計とか、ジュエリーとか、一緒に育っていくものはほぼ全て、悔しいときに買ったものです。だから、私の悔しさのアーカイブですね。--神崎恵

私も、子どもが少し成長して外出できるようになった頃、自分へのエールの気持ちも込めて、ずっと憧れていた高級ブランドのバッグを思い切って買った。初めて入ったその店舗で、店員さんは丁寧にバッグの製作過程を説明してくれた。その日以来、そのバッグを持つたびに、私は少し自信を取り戻すような気がしている。

自分にとっての特別な贅沢を、あえて経験してみる。そんな自己投資が、他人と比べてしまう気持ちから解放される手っ取り早い方法のひとつだと思う。それができたら苦労しませんよ!と言われそうで、本人には言えていないのだが。


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